ママをお願い | 続・阿蘇の国のアリス
気がつけば夏が終わり、
秋がすぎて、
アリスガーデンから
見上げるカエデは
青々とした緑から、
裸の枝だけになりました。


そのあいだ私は
パパとママの言葉をひたすら守り、
生き続けてきました。


でも、私の病気はじりじりと
進行していきました。


(もう、ダメかもしれない...)


夜9時過ぎ、
きょう3度目の痙攣を
起こしてしまいました。

おまけに失禁までしました。

恐怖から流れる汗は、
べたついて嫌なにおいがします。


私の体調が急変したのは、
昨日病院から帰った深夜からです。

「眠ってるのか、昏睡状態なのか...」


寝ていたら、
急に息が苦しくなって、
朝方までずっと
悲鳴を上げていました。




パパとママは一日中、
怖い顔をして硬直しているようでした。


せいらママにも会ってきました。

せいらママの左手が私の髪に伸びました。

癖のある髪を指がとおっていきました。


「すごく残念だけど、
わたしはもうこれ以上は闘えないみたい」


「ママを残していくのは悲しいけれど、
なにもしてあげられないの」


「ママをお願い...」

何度か繰り返された言葉が
遠くの鐘の音のように
私ののどの奥深く消えていきました。


人生の最後を迎えて、
私の望みはどんどん単純になっていく。

私は今、昏睡状態です。


「アリス戻って来い!戻って来いアリス!」