眠れる森のアリス | 続・阿蘇の国のアリス
月曜日の午前9時、
ぼくはなんとか立ちあがりました。

「アリスちゃん...」


アリスも7回目の発作から、
立ち直っているようでした。

(ここは、どこ?虹の国、阿蘇の国?)


12時間以内に7回の痙攣...
「群発発作」です。


(サンタさんにはもう会えないのかな)


最悪の場合は
死にいたることもあるため、
朝から病院に急ぎました。


夜明けのスーパームーンが
消えていくように
アリスの輝きも失われていくようでした。

それはひどいショックで
車のなかでも、三人とも
全身の震えはとまりませんでした。


「ごめんね、何もしてあげられなくて...」

こらえていた涙が
じわじわと彼女の目の奥から
押しだされてきました。


ぼくはアリスよりもずっと衝撃に弱く、
病院のトイレで吐いてしまうほどでした。


「アリスちゃん、どうかな?」


こうしてぼくたちの最後の冬が始まりました。


「先生、アリスは、
一時間に一回ペースで痙攣を起こしました。
怖くて、何もできませんでした...」


「まずは血液をとって、内臓を調べましょう...」


「つぎに、もう痙攣しないように、
抗てんかん剤を注射します」


「水も飲んでいないので、点滴も。
ステロイドも...」


「血液検査の結果がでました。
内臓に問題はありませんね。
こうなると、脳圧があがったためか、
脳梗塞ですね」

「脳梗塞...」

白く傷ついた頭のなかで
起きている変化は、
あまりに急速で
容赦がありませんでした。


それでもアリスは
素晴らしい勇気を見せてくれました。


恐怖に耐え、
死よりも過酷な自分自身の喪失さえ、
明るく笑い飛ばしてみせたのです。

(私はだいじょうぶだから、元気をだして)


アリスにそういわれたら、
ぼくは泣きそうでも
笑うしかありません。

心のなかで歯を食いしばり、
涙をこらえて笑うことにします。

「ちっともだいじょうぶじゃ、
ないくせに...」


(ママ、頭下げ過ぎ。
点滴が頭に集中してる...
ココママさんのブログにも
書いてたでしょう)


(チッ...)




「たい焼き5個ください」


(パパ、何してるの...)


(眠っているのに、
たべるわけないでしょう...チッ)


これほど友達と
心がひとつだと感じたのは
初めてかもしれません。

アリス、
それもきみが残してくれた
思い出のひとつです。

ありがとう、アリス、ありがとう。

「スー、スー、スー、
眠れる森のアリスちゃんです」