「コッ、コッ。クッ、クッ。」
「アリスちゃん、おはよう、コッコッ♪」
「やあ、ヤキトリ♪」
ビールのようなオシッコをしたら、
旅の始まりです。
「やあ、ミズタキ♪」
「きょうは、どこまで行くの?クックッ」
「ママが寝違えて、
首が痛いって言うから、温泉かな」
「わいた温泉郷に行くみたい」
「あれ、もう着いたの。ここはどこ?」
「北里柴三郎先生の故郷だよ。
阿蘇の国のアリスちゃん♪」
「...北里柴三郎?」
「細菌学者の北里柴三郎は、
いろいろな伝染病を研究し、
治療法を発見した人で、
ここ熊本県小国町で生まれたの」
「国からドイツに派遣され、
破傷風という病気の研究に取り組み、
血清療法で破傷風を治したのよ」
「帰国すると、
友人の福沢諭吉の支援で、
日本で初めて伝染病研究所を完成させたの」
「門下生には野口英世がいて、
2015年にノーベル賞を受賞した
大村智さんもそこに勤めていたのよ」
わいた温泉郷「裕花」
「今はいいけど、私ときどき、
記憶が飛んでるときがあるの。
なにをして、なにをいったか、
全然覚えてないんだ」
「ママや、パパに、
ひどいことしてないか、
怖くてたまらないの。
最後に鬼になった私、
見せたくないな」
「いいよ、鬼になっても。
アリスみたいなかわいい鬼なら、大歓迎よ」
「もっと私のそばにいなさい。
夜も朝もいっしょのほうが、
ずっといいから」
胸の底が避けて、
中身がすべて流れだして
しまいそうでした。
けれども怒ることも叫ぶことも
できませんでした。
ママは私の何千倍も悲しいに
決まっているから。
「いつかこの世から、
すべての病気がなくなればいいのにね」