口をとがらせる | 続・阿蘇の国のアリス
「パパ、ト、イレ!」

上半身を起こした介護ベッドのうえ、
私は身体をひねりました。

寝ていたパパが私の声を聞いて、
あわてて二階から降りてきました。

「どうした?アリス」

パパはしっかりと私に抱きつくと、
転がるように起きあがりました。

「今、呼んでくれたね。ありがとう。
トイレでしょう、だっこしてあげる」

パパの目は底なしに深く、
表面だけが涙で濡れていました。

私は外に出てオシッコをしました。

トイレがすむと、
パパが私の頭をなでました。

しばらくして落ち着くと、
私はまたひとりになっていました。

「パパ、どこにいったの」

パパの声が薄い壁越しにきこえました。

「ここにいるよ。
そう、淋しかったの。
また、呼んでくれたね」

パパは私の身体を強く抱き締めました。

しばらくすると、お腹が空きました。

「パパ、お腹が空いた!」

「アリス。何回呼べば気がすむの!」

パパはなぜか口をとがらせました。

今日は病院にいくはずでしたが、
もう少し後になるようです。