ひとつだけ | 続・阿蘇の国のアリス
感動を通り越して、
仰天する旨さの伊勢えびが
ここにあります。

大分県最南端に位置する「蒲江」。


かつては県内一の大きな
漁港を誇った町で、05年に
道の駅が誕生して以降は、
再び大勢の観光客で
賑わうようになりました。




「なんだかアリスに悪いね。
私たちだけが、ぜいたくして...」

「そんなこと気にしなくていいよ。
ぼくたちだって、
一緒に闘っているんだから。
英気を養わなくちゃ」


「ねっとりと舌に絡み付く
独特の触感は、伊勢えびの身が
新鮮であるなによりの証拠ね」


「それから伊勢海老は、
厄除け、健康長寿、
必勝祈願の縁起物。
ママにとっても
大切なたべものなんだよ」


「食べた瞬間、豊潤な甘みが
口の中いっぱいに広がる」




食事の後、三人の姿は、
蒲江海岸にありました。

「呼子にそっくりだね」




「あの防波堤まで行ってみよう」






「危なかった...」


くすんだエメラルドグリーンの
穏やかな波が、白い泡となって
浜に打ち寄せては引いて行きました。


「バースくんとココママさん、
大丈夫かな...」


「大丈夫じゃないよ。だから、
バースくんには
ぼくの命を5歳あげる。
そうしたら、あと1歳は大丈夫でしょう」


私は顔をあげて、
ママの目を見ました。


「いいかな。ママとパパに
ひとつだけ覚えておいてもらいたいの」


「それはね、
私はママとパパと会えて
ほんとうによかったと思っていること。

今日この瞬間だって、
ここにいるすべての人たちのなかで、
私が一番幸福だって思うよ。

誰とくらべても、
絶対に私が一番幸せだって」


「アリス、私もあなたといっしょに
生きられて、ほんとうによかった」


私たちは海の光と
波のビートに打たれて、
抱きあったまま立ち尽くしていました。