「アリスちゃん...」
「無事に帰って来たんだね」
「よかった...コン、コン~♪」
ペットクリニックから帰って来た私は、
次に、黒川温泉に連れて行かれました。
去年の8月17日...
あの悪夢のなかで
死を自覚してから、
私はもう一度自分の人生を
猛烈な勢いでフラッシュバック
しているようでした。
なぜだろう、
理由がまるでわかりませんでした。
いったい回想する自分とは、
どんな存在なのでしょう。
幽霊、魂、生き霊、ゴースト、スピリット...
「ママ、早く、早く」
「アリスちゃん、いらっしゃい♪」
酵素かけおかあさんの声は明るく、
顔には元気づけるような笑みが
浮かんでいました。
「また死にそうになったの...
おかあさんよろしくね♪」
「パタン」
「ジー」
「ジーー」
「私も♪」
目が覚めると雨の音がきこえました。
幼いころはよくぼんやりと
雨の庭を眺めていたものです。
水たまりに落ちる雨粒の波紋は、
いくら見ても飽きることが
ありませんでした。
「ママ、雷鳴った」
「手でふさいだからだいじょうぶ」
光の渦は今回も突然やって来ました。
穴のあいた洞窟のように
酵素の壁から金色の光がさしてきました。
「ねえ、酵素かけおかあさん。
おかあさんは、もしかして魔法使い?」
「そうさ、私は魔法使いさ。
誰にも言うんじゃないよ」
「ねえパパ、今の私は、
パパとママにとってどんな存在?」
「天使かな...」
「そうよ、あなたは天使よ」
「天使か...」