私の師でもあるボストンのトミー・トンプソン先生も「アレクサンダーの教師は生徒一人一人の美にワークしている」と常々言っています。
アレクサンダー・テクニークで美しさを引き出すことについて今日は書いてみようと思います。さて、私の思いを書く前に、人の「美しさ」に関係する要素とは何かを整理してみたいと思います。
わかりやすいのはまず「形」の美しさ、造形美です。スタイル、プロポーション、形のバランス、適度な大きさ、顔の作りの整い、髪型、爪の形などでしょう。そして「質感」の美もあります。肌のきめ細かさ、髪質、肌の色など。
この辺については、美に関係する要素としてわかりやすい部分かと思います。この「形」と「質感」の部分については、多くの女性が日々磨きをかけていらっしゃるところです。ダイエット、メイク、ヘアーサロン、化粧品等々。
しかし、美の要素はもっとあります。
その一つが「動き」です。立ち振る舞いだったり、しなやかで柔らかい動きには美しさを感じられるはずです。スポーツのトップアスリートのファインプレーや、バレエダンサーの動きには、誰もが美しさを感じますよね。動物の自然な動きにも美しいと感じたりします。
そしてもう一つ挙げられるのが「発声」です。
声の美しさも人を魅了すると思います。わかりやすい例は歌手の歌声です。人気のある歌手は、もちろんその造形も美しくなくてはならないでしょうが、その前に声の美しさがなければ歌手にはなれないでしょう。また、単なる話声でも、落ち着いた声、響きのある声、すっきりした声の人は、相手を惹き付けます。ここを評価する異性の方も意外と多いかもしれません。
その他にも「言葉遣い」「人との受け応え」「思慮深さ」「ファッションセンス」なども加えようと思えばありますが、これらは私の中ではもっと社会的なレベルの美となるため、ここでは身体一つで表現されうる原始的な美の部分のみを考えようと思います。
以上の「形」「質感」「動き」「発声」が人の美しさに大きく影響を与える部分かと勝手に解釈させていただきました。
さて、どれが重要なんでしょうか。人によっても評価は分かれると思います。
一般的には「形」「質感」が重要な評価要素になっていることに対し、「動き」や「発声」はやや重要度が下がるように思われているかもしれません。ただ、よく考えてみるとこの「動き」や「発声」も美しさの要素としては、けっこう重要だったりしませんか?あなたが実際に何か惹かれてしまうと思った人は、単に「形」や「質感」だけの美ですか。トータルでみると、「動き」や「発声」にも心地よさを感じていませんか。または、写真の姿は見ていたが、実際に会ってみて、その動きと声を聞いた時に印象が変わったというようなことはありませんでしたか。
確かに、一般的には「形」「質感」というところに向かいがちですが、「動き」や「発声」も重要な要素だと私は思っています。
では、アレクサンダー・テクニークはどのようにして、美に影響を与えうるのか。
私の思いでは、その得意とする「動き」「発声」に限らず、上記で挙げた「形」「質感」の全てを通じて美に貢献できると考えています。
「動き」「発声」はアレクサンダー・テクニークの得意分野です。余計な緊張のないラクな動きや発声をどのような時にでもできるように目指しています。この余計な緊張がなくなると、その動きはしなやかに、かつ柔らかくなります。これが美しさを引き出すんです。
例えば手や腕の動き。指先などの先端に導かれて、それに手やひじや肩が受動的についていく動きはしなやかさを感じます。これが、肩から動かしている人の場合は、肩に余計な筋緊張が入ってしまい、見ていても固さを感じますし、腕が伸びやかには見えません。バレエの手の動きで、肩から動かしてしまう人がいますが、腕が大きく動けなくなってしまいます。腕でいえば、腕は肩から始まっているわけではないんです。喉元にある胸鎖関節(胸骨と鎖骨の関節)から始まっているんです。ここから腕が指先や手、肘のリードで受動的に動けるんです。
また一つの例ですが、食事の時に、時々頭や首が前に落ちてご飯に向かっていってしまう方がいらっしゃいます。ご自分では無意識です。しかし、客観的には自分からご飯の方に向かっていってしまっている形となり、程度にもよりますが、がっついているような印象となってしまいます。その方が素敵な服装をされていたとしても、全体の美しさの観点ではマイナスになってしまうことでしょう。
この時に、自分は自分のバランスの中にいて、箸が自分の口に食事を持っていくということを明確に指示し、その通りに自分の首の動きを抑制できれば、凛とした姿となり、とても美しくなるのです。
こんな些細なこと一つでも、美しさに影響を及ぼすのです。歩くこと、物をとるしぐさ、様々な動きがありますが、こうした動きの中でアレクサンダー・テクニークを通じて、基礎的な身体の使い方と自分自身の不必要なくせを知っておくことで、より美しい動きを導きだすことができるのです。
「発声」についても動きと同様です。身体の余計な緊張を取り除いていくと、まず声が変わります。筋肉の緊張が少なく全身を共鳴するボディとして使えるので、深く響きのよい声に変わります。また、効果的に呼吸を使えるようになるため、楽に声を出せるようになります。そして、これが本来の身体の使い方であるため、ある意味でその人本来の声、自然の声になると言ってもいいかもしれません。余計な緊張が声帯部にあると、声に張りが強すぎて、聞き手によっては「イライラしているような」「アニメのキャラクターのような」「緊張しているような」声のように聞こえてしまいます。自然の声だと、違和感を感じさせず、相手にも落ち着きを与えたり、信頼を得たりすることができます。こうしたことが声の美しさとして感じられるのだと思います。
俳優や歌手は声で美を伝えています。英国の王立演劇学校でアレクサンダー・テクニークが正式なカリキュラムに加えられて指導されていたり、多くのプロの歌手がアレクサンダーのレッスンを取り入れていることが、何よりもアレクサンダーのレッスンが自然な声を出して美に役立っている証です。
ここまでで長くなってしまったので、一旦お休みさせてもらい、後半部の「形」「質感」がアレクサンダーレッスンでどのように変化が期待できるか、については後日に示したいと思います。

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