はじめに:

「周りも始めてるから、うちもそろそろ…」

「とりあえず通塾してみようか」

そんな“なんとなく”で始まった中学受験が、あとになって苦しくなるケースを、私はこれまで何度も見てきました。

中学受験は、子どもにも親にとっても大きな挑戦です。ただし、「志望校」や「偏差値」といった“目に見えるもの”を決める前に、もっと大切にしてほしいのが、“目に見えない価値観”のすり合わせです。

なぜ受験するのか。どんな姿勢で向き合っていくのか。今回は、受験を「始める前」にこそ、親子で話し合っておいてほしいことを、5つの視点でお伝えします。


  ①:「なぜ中学受験をするのか?」を、親の言葉で説明する


子どもにとって、勉強の先にある“意味”は見えづらいものです。ましてや、「良い中学に入れば、良い高校、良い大学…」というルートが約束されている時代では、もうありません。

それでもなぜ、あえて小学生の今、受験という選択をするのか。その理由を、親自身の言葉でしっかり伝えてほしいのです。

「もっと学びたいことを自由に学べる学校を見つけたから」

「新しい環境で、思いきり個性を伸ばしてほしいから」

正解はありません。

ただ、“親の本音”がそこにあるかどうか、それを子どもは敏感に感じ取っています。

「パパやママは、自分のことを本気で考えてくれてるんだな」

そんな安心があるだけで、子どもはぐんと前を向くようになります。

  ②:「今の生活の何が変わるか」を現実的に共有する

中学受験を始めるということは、単に「塾に通うようになる」だけではありません。それは、家族全体の生活スタイルが大きく変わるということでもあります。

これまで遊んでいた時間が、勉強に充てられるようになる。週末の習い事やレジャーが制限されることもあるかもしれません。これらを“我慢させる”のではなく、事前に“共有する”ことが大切です。

「ママもスマホを触る時間を減らして、一緒に頑張るよ」

「パパも週末の予定を調整して、○○の送迎は任せてね」

そうやって、家族全体で“受験モード”に向かう空気を作っていく。


受験は、子ども一人の挑戦ではありません。親がどこまで本気で伴走できるかが、実は一番問われているのです。


  ③:「偏差値に一喜一憂しない」ことを“家のルール”にする

模試を受ければ、結果が出ます。その数字に、つい心を揺らされてしまうのが親心です。けれど、ここで絶対にしてほしくないのが、

「なんでこんなに下がったの?」

「これじゃダメじゃない」

といった、数字だけを見た評価です。

偏差値とは、いわば“スナップ写真”。一回ごとの数値で評価するのではなく、

「今回は読解のスピードが落ちたかな?」

「この単元、まだ定着してないかもね」

といった“行動”や“原因”に目を向けてあげてほしいのです。そして、こんな声をかけてみてください。

「今回の模試で、何がわかった?何か工夫できそう?」

「点数より、工夫したところを教えてくれる?」

こうして数字を“評価”ではなく“会話のきっかけ”にすれば、子どもも偏差値に振り回されずにすみます。


「偏差値に一喜一憂しない」は、成績を安定させます。この考え方を、家族で共有しておくことがとても大切です。

  ④:「合格だけが成功じゃない」と最初に話しておく

中学受験は、合格がゴールのように思われがちですが、そうは思いません。むしろ、合格“してしまう”と、子どもも親も、それで終わった気になってしまうことさえある。

本当に価値があるのは、合否にかかわらず、

・毎日机に向かった時間

・くじけそうになって立て直した経験

・できなかった問題を、工夫して解けるようになった達成感

そういう“学びの積み重ね”です。だからこそ、始める前にこう言ってあげてほしいのです。

「合格してもしなくても、君が頑張ったことは絶対に消えないよ」

「やってみたこと自体が、きっと将来の力になるよ」


こうした声かけが、子どもの挑戦を支える“土台”になります。


  ⑤:「受験する/しない」を、子ども自身に決めさせる

最後に、何よりも大切なのは、“自分で選んだ”という実感です。もちろん、最初の提案は親からで構いません。ただ、「やってみようか?」と問いかける形で、子どもの意思を確認してください。

「無理だったら、途中でやめてもいい」

「受験しない選択肢だって、悪いことじゃないよ」


そう言ってあげたうえで、「でも、一回やってみたい気持ちがあるなら、全力で応援する」

そう伝えることが、子どもの心を動かします。自分で「やる」と決めた子どもは、途中で苦しくなっても「自分が決めたことだ」と思い出せます。それが、最後まで走りきるエネルギーになるのです。


  おわりに


受験に向かうかどうか。どこを目指すのか。どんなふうに取り組んでいくのか。それを「親が決めたから」ではなく、「親と話して、家族で決めたから」という感覚があれば、受験期はきっと、苦しいだけの時間にはなりません。


偏差値や合否にとらわれすぎず、

“今ここでがんばっている我が子”を、どうか信じて見守ってください。


そして、最初のその一歩を、

「よし、やってみようか」と、親子で同じ方向を見ながら踏み出してほしいと思います。