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★小説『最後の鬼ごっこ』-その1-★

ありがとうございます。

 

十数年前、亡き母が認知症になり

徘徊するのを捜していた頃の

体験を元に書いた小説です。

 

 

★『最後の鬼ごっこ』★

<その1>

 

徘徊している母を捜していた。

一月の寒い夜、東京多摩地区の

調布辺りの良く知らない街を、

ガラ系携帯の小さなGPS画面を

頼りに自転車で捜していた。

 

母の「散歩」が「徘徊」に

なったのはいつ頃だろう?

 

初めて警察に保護されて連絡が

きたのは二年程前だった。

母は83歳だった。

その数年前、井の頭公園からの

帰り道に転んで大腿骨を骨折し

入院した頃から

認知症の兆候は現れ

始めていた気もする。

 

人通りのない住宅街の道を

ゆっくり自転車を

走らせていた。

小さい携帯の画面から

目を上げて周りを見回し、

はぁ~、

とため息をつく。

おっと、眼鏡が

曇ってしまった。

 

自転車を止めハンカチで

眼鏡をふき、

ふと空を見上げると満月が

煌煌と輝いていた。

 

この月は一段と明るく

輝いている気がした。

 

もう二時間近く郊外を

走り回っていたが、

帽子を深くかぶって

小さな携帯画面ばかり

覗いていたので

まったく頭上の明るい満月に

気が付かなかった。

 

思わず笑みを浮かべた。

 

寒空に

満月を見て

満面の笑み

「満」と「満」とで

マン・ツー・マン

 

くだらないな。

お月様に謝らなくちゃ。

あ~あ、母よ何処。

また眼鏡が曇る。

 

 

二年前のある夜、

荒川区の警察署から母親が

家に帰れず迷子になっていたのを

保護したから迎えに来るように

と長男の私に電話があった。

この時はまだ母は

何故自分が警察にいるのか

理解しているようだった。

 

「今日はいろいろお話しできて

楽しかったわ」と、

警察の人たちに事情をいろいろ

訊かれたことを楽し気に

語っていた。

普段、一人暮らしで散歩に

出かけても人と話すことが

あまりなかったので

嬉しかったようだ。

 

その後、母は時々迷子になり

保護されるようになった。

交番を「あのお店」だとか

警察官を「先生」などと

言うようになり、

子供の私たちが交番に

迎えに行くと

「何しに来たの?」とか

「あらよかったわ。

ちょうどお店から帰るとこよ」

などと言うこともあった。

 

幼い子が言葉を覚えていくのと

同じくらいの速さで記憶や

言葉を失くしていき、

認知症は

みるみる進行していった。

 

最近では週二回くらいは

家に帰れなくなり見知らぬ

街を徘徊している。

 

<つづく>

 

 

 

             

 

 

 

ありがとうございます。

あなたに雪崩のように

いいことが

降ってきますように❣

 

 

 

★小説『イパネマの猫』-その4-★

★『イパネマの猫』★

<その4>

 

 

青い海と南の国の白い砂浜が

見えるカフェで

二人は珈琲を飲んでいた。

 

「えっ?カヨちゃん。

あの坊やたちに百万も

渡したの?」

 

二人の座っているテーブル

の下に一匹の猫がやってきて、

前足を伸ばしてミャ~ンと

鳴いた。

 

「だって、それぐらいあげなくちゃ

詐欺師の役やってもらって

悪いんじゃない?」

 

イネは猫の頭を撫でながら言う。

 

「あ~あ、気前がいいこと!」

 

日本とは正反対の季節の海を

眺めながら、

カヨはうれしそうに一口

珈琲を飲む。

その時、流れてきた音楽に

イネが反応した。

 

「あっ、これこれ!

これって私たちのテーマソングね!」

と、左手の人差し指を振りながら

イネはカヨに言う。

ボサノバの代名詞のような曲。

 

「え~と、イパ?イバ…

ネマ?ヌマ?、

沼だったかしら?」

 

「イバヌマ?あぁ、印旛沼、

千葉の印旛沼のこと?」

 

「何言ってんのよ!

そう、そう、

”イパネマ”よ!

”イパネマの娘”よ!」

 

「はぁ、ここはコパカバーナ

じゃなかった?」

 

「ええ?まぁ、いいわよ。

とにかく私たちの曲よ。

ねっ!」

 

「ええ?

”イパネマの娘”が?」

 

「そうよ。このキレイな海岸。

このボサボサのリズム。

私たちにピッタリよ」

 

「ボサボサじゃなくてボサノバ!

ジョビンが怒るんじゃない?

娘だなんて」

 

「ふふふ、そうね。

私たちは”イパネマの娘”というより

”ネコババの婆さん”ね」

 

カヨの足元で猫が気持ち

よさそうにアクビをした。

 

<おしまい>

 

 

ありがとうございます

 

自作の曲です。

よかったら聴いてください。

 

 

             

               

 

 

あなたに雪崩のように

良きことが

降ってきますように❣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★小説『イパネマの猫』-その3-★

★イパネマの猫★

<その3>

 

三日後、カヨは思った。

そうだわ。こちらからこの番号

にかけて確かめてみよう。

カヨは携帯から”息子”に

連絡してみた。

 

「もしもし太郎?」

 

「えっ?桃太郎?

はっ!

あ~、あ、母さん?

今仕事で客先に行くとこだから

後でかけなおすよ」

 

やっぱりこの”息子”は

怪しいわね。

“合言葉”でちゃんと確認

しなきゃ!

 

その日の午後、

カヨの携帯に”息子”から

電話がかかってきた。

 

「もしもし、母さん

 

「お、お、オープン

 

「は?セサミッ❣ 母さん❓」

 

「ほ~、太郎なのね。

最近、どうなの?」

 

「いやぁ、ちょうど良かった。

今、困ったことになっちゃって

あ、あの頼みが、

母さん!

頼みがあるんだ。

実は・・・」

 

 

 

一週間後、

太郎ー本物の息子ーから

家の固定電話に連絡があった。

そして

カヨは詐欺にあったことが

わかる。

 

「な、な、なに~‼」

虎五郎は口から泡を吹き、

「そ、そ、それでお前は

か、か、金を渡したっていうのか!」

 

「だって、

あの子が本当に困ってるって

言うんだもの。

本当にごめんなさい」

 

「馬鹿者が❣

なにがあの子だ!

全然知らん奴に金を渡しおって!

う、う、う~」

 

「だ、だって

合言葉もちゃんと知ってたのよ」

 

「バカ~ッ‼

”オープン”って言えば

”セサミ”は

当たり前だのクラッカ~だ!

お前は本当に、

馬鹿ばかバカFool

愚者ぐしゃグシャIdiot

 

「ご、ご、ごめんなさい。

そんな

漢字、ひらがな、カタカナ、

Englishで

怒鳴らなくても・・・

本当にごめんなさい・・・」

 

結局、二千万円程詐欺に騙し

取られたことが判明した。

その後、夫、虎五郎は

カヨに口をきかなくなった。

 

 

三か月後、

イネとカヨは姿を消した。

町内の誰も、家族親戚の誰も

二人がどこに行ったのか

知らなかった。

認知症になり徘徊して

行方不明になったのでは

と言われ始めた。

しかし、二人は・・・

 

<つづく>

 

 

 

自作の曲です。

よかったら聴いてください。

 

                                             

 

 

あなたに雪崩のように

いいことが

降ってきますように❣

 

ありがとうございます