★小説『最後の鬼ごっこ』-その7-★
ありがとうございます。
徘徊する認知症の母を
捜索する物語です。
★『最後の鬼ごっこ』★
<その7>
その後ひたすら
東京の西にあるとは思えない
西東京市に向かって
北に向かった。
調布市→三鷹市→武蔵野市
へと、
「北北西」ではなく、
「北北北へ進路を取れ」と
できるだけ真っ直ぐ
自転車を走らせていた。
まだ作りかけの外環道路
を北上していた。
道路を拡張するために
両側に空き地が続くが、
時々まだ立ち退いていない家が
点々と存在している。
「頑張ってね、オレ」
などと呟きながら
自転車をこぐ。
道幅が広くなったり
狭くなったりしていた。
もうすぐ武蔵野市かな?
腹減ったな・・・
そして東西に走るJR中央線の
高架下をくぐって
少し進んだ所だった。
うわっと❣
体が傾いていく・・・
あ~あ、やっちまった。
自転車のバランスを失って
転んでしまった。
足をついてから倒れたので
怪我はなかった。
が、えらく驚いた。
そこは砂利道だった。
さっきの若造に
「砂利道では自転車を押して
行け」と言われたことを
思い出して。
何なんだ。
アイツは未来が分かるのか?
徘徊している母親を
捜していることも、
帰りに砂利道を通ることも
知っていたというのか❓
ウ~ム。
認知症”dementia"の人は
どんな次元"dimension"の
世界に生きているのか❓
一方、
認知症ではない人間は❓
認知症ではない凡人は、
過去にとらわれ、
未来の心配ばかりしている。
決して
「今」、この瞬間を
つかむことはできない。
ただ今だけに集中して
一つのことだけに取り組む
なんてできない。
仕事でも、食事でも、
一心に歯をみがくことさえ、
健康(?)な凡人はできない。
人と話していても、
仕事のことだったり、
相手の服装を値踏みしたり、
昼飯に何を食べようかなどと
考えたり・・・
相手の言葉は耳の奥3ミリから
先には届かない。
いわゆる健康な凡人には
今を生きることは難しい。
認知症の人たちは
過去も未来もない
今の世界に生きているのか?
Here and Now
「いまここに」の世界に
生きていると言えるのか❓
その瞬間、瞬間を生きる。
まるで悟りを開いたひとの
ようにも思われる。
ただ、
認知症の人にとって
過去に降りる梯子も
未来に上る梯子も
外されているということか❓
母をデイサービスや老人施設
に通わせようとする試みは
何度やっても
うまく行かなかった。
ヘルパーさんに来てもらう
こともできず、
頑固な母を
なんとか誘いだして
ケアサンタ―の前まで来ると
身構えて、
「あそこは老人ばかりで
変なことしているのよ。
何をされるかわからないし、
私には関係ない所よ」
と、絶対に中に
入ろうとしなかった。
区役所から通知が来たから
と嘘をつき
デイサービスに連れて行けても、
翌日、迎えの人が来ると
前日のことは忘れていて、
頑なに拒絶し、
迎えに来てくれた人は
仕方なく帰っていく。
<つづく>
自作の曲です。
新たに生まれるために
作りました。
ありがとうございます
あなたに雪崩のように
良きことが
降ってきますように❣
★小説『イパネマの猫』-その6-★
ありがとうございます。
徘徊する認知症の母を
捜索する物語です。
★『最後の鬼ごっこ』★
<その6>
自転車を押しながら
母と一緒に
この辺りでは明るくて
夜でもすぐに分かりそうな
コンビニの前まで戻った。
それから公衆電話で
この近辺のどこかで
母を捜しているはずの姉に
母が見つかったことを
伝えた。
数分後、
姉は私たちのいるコンビニの
駐車場までタクシーで
やって来た。
降りるとドライバーに
待つように言い、
小走りでこちらに
向かってきた。
「こんな所にいたの❔
さっきまでGPSが
示してた所とずいぶん
離れてるじゃない❢」
「あぁ、このGPS、
ちょっと実際の場所と
誤差がある
みたいなんだ」
「ちょっとって、
かなりの誤差よ❢」
「うん。
このGPSは
グローバル・
ポジショニング・システム
の略じゃなくて、
ゴサーアル・
(誤差ある)
ポジショニング・システム
の略なんだ。
アハハ!・・・」
姉はつまらなそうな顔で
私を無視して
母の所へ行った。
「お母さん、
歩き疲れたでしょ。
さぁさ、帰りましょ」
と、
姉は母の手をとろうとする。
母はまだ姉のことが
誰だか分からない様子。
「え~と、
あなたは鶴子のお友達
でしたっけ❔」
「私は、
鶴子の妹の、亀美よ❢
カ、メ、ミ、
よ❢」
「へ~え、
そうなの❔
カメちゃん❔」
「そうなのよ❢
さっ❢
おうちに帰るわよ」
姉は母を抱え込むようにして
タクシーの後部に押し込み、
自分も乗り込んだ。
「じゃぁ、お母さんを
送っていくわ。
お疲れ様❢」
タクシーは
母の住むマンションのある
杉並方面に走り去った。
さて、
残された私は携帯の電池も切れ
小銭も切れて
家族に連絡もできず、
はるか遠く自宅のある
西東京市までどの道を
通って帰ればいいのか❔
薄暗い街灯の下で
紙の地図を取り出し、
大体の見当をつけて
自転車を走らせた。
しばらく自転車で走ると
学校らしき建物の前に出た。
少し気になって
校門の学校名を見る。
「第一中学校」とある。
あれっ❔
さっき探していた学校だ。
一体、どういうことだ❔
母を見つけた場所とは
1キロ近く離れている。
GPSの誤差なのか❔
老人の足がそんなに
速いのか❔
ウム、謎だ。
それに、
私は道を間違えたのか❔
この中学の前の道は
さっきコンビニ近くの
母を発見した道とは
全く違っていた。
例の橋の近くで会った
エラそうな態度の若造に
教わったのとは違う角を
曲がったのだろうか?
そんなはずはない・・・
確か私はこの学校の場所を
アイツに尋ねたはずだ。
もしかして、
アイツは学校ではなく
母の居場所を
教えてくれたのか❔
いや、そんなバナナ・・・
馬鹿な。
アイツに
人を捜しているなどと
一言も言っていないはずだ。
とにかく
運が良かったんだ
と、
考えよう。
<つづく>
学生時代好きだった
ブラッドベリ―の短編集
”The October Country”
に影響を受けて作った
曲であります。
よかったら聴いてください。
ありがとうございます。
あなたに雪崩のように
良きことが
降ってきますように❣
★小説『最後の鬼ごっこ』-その5-★
ありがとうございます❣
徘徊する認知症の母を
捜索する物語です。
★『最後の鬼ごっこ』★
<その5>
その作業服の若い男に尋ねる。
「あのぉ、
第一中学校に行きたいんですが、
どう行けばいいか
分かりますか❓」
「ああん、え~と、
この道を戻って
最初の角を
左に曲がって
真っ直ぐ行きな❣」
今どきの若者は
口の利き方がなっておらん、
と思いつつ
「あれ❓
こっちの方かと思ってたんだが、
・・・
こっち、北ですよね❓」
「いいや。北はあっち❣
方向感覚が欠如しとるな…
この道を50メートル位
戻れ❣
そしたら角に
お地蔵様が立ってるから、
そこを左に曲がって
真っ直ぐ行きな❣」
なんだこいつ。
無礼な話し方に少し、
いや相当カチンときた。
言われんでも
方向音痴なのは分かってる。
うちの息子と同じくらいの歳
だと思うが、
丸ぶち眼鏡かけて、
薄ら笑いを浮かべてやがる。
「それからな、
コンベニだったかな、
とにかく店があったら
右に曲がり少し行ったら
・・・いるよ❣」
コンビニだ。
なまってるな、こいつ。
マイナス1点❣
それに学校だから「ある」だ。
マイナス2点❣
と思いながら
「はぁ、ありがとうござい・・・」
わざと語尾を不明瞭にして
態度のでかい若造に
感謝した。
「ああ、それから砂利道では
自転車を降りて押して行きな❣」
「はぁ、どうも・・・」
へぇ❓何だって❓どこに
砂利道があるってたんだ…
今来た道を戻りながら
『地蔵を左に曲がって
コンビニ右。
ジゾー・レフト、
コンビニ、ライト❣』と、
心の中で繰り返していると、
後ろから
「よろしくな❣」
と、さっきの若造に言われた。
なんなんだ❣アイツは。
偉そうな若造に言われた通りに
自転車を走らせた。
地蔵の角、ターンレフトして、
コンビニ、ターンライトして…
ほんの少し行った所でビックリ❣
中学校を見つける前に
『目標』を発見したようだ。
暗い夜道をよろよろ歩いている
老女の後ろ姿❣
近づいてみると
我が母親のようだ❣
なんともラッキー❣
よろよろ歩く小さな背中に近づき、
洋服や鞄から母であることを
確信して声をかける。
「あれっ?お母さんじゃない❓
ねぇ、何処へいくの❓」
少し驚いた様子で母は、
「あっ、あっ、あのお、
シュウ君❓
あなた修一君よね❓」
「そうだよ。お母さん、
一体こんな所で何してんの❓」
「あらぁ、ちょっと、
あれしてね。
あなたに会えてよかったわ。
もう私はダメかと思っていたの」
と、
母は最近の決まり文句を言う。
<つづく>
自作の曲です。
迷走、いや瞑想にお使い下さい
ありがとうございます
あなたに雪崩のように
良きことが
降ってきますように❣