アル☆ケミー 英語教室のブログ -4ページ目

★小説『最後の鬼ごっこ』-その7-★

ありがとうございます。

徘徊する認知症の母を

捜索する物語です。

 

 

★『最後の鬼ごっこ』★

<その7>

 

その後ひたすら

東京の西にあるとは思えない

西東京市に向かって

北に向かった。

 

調布市→三鷹市→武蔵野市

へと、

「北北西」ではなく、

「北北北へ進路を取れ」と

できるだけ真っ直ぐ

自転車を走らせていた。

 

まだ作りかけの外環道路

を北上していた。

道路を拡張するために

両側に空き地が続くが、

時々まだ立ち退いていない家が

点々と存在している。

 

「頑張ってね、オレ」

などと呟きながら

自転車をこぐ。

 

道幅が広くなったり

狭くなったりしていた。

 

もうすぐ武蔵野市かな?

腹減ったな・・・

 

そして東西に走るJR中央線の

高架下をくぐって

少し進んだ所だった。

 

うわっと❣

 

体が傾いていく・・・

 

あ~あ、やっちまった。

自転車のバランスを失って

転んでしまった。

 

足をついてから倒れたので

怪我はなかった。

 

が、えらく驚いた。

 

そこは砂利道だった。

さっきの若造に

「砂利道では自転車を押して

行け」と言われたことを

思い出して。

 

何なんだ。

アイツは未来が分かるのか?

徘徊している母親を

捜していることも、

帰りに砂利道を通ることも

知っていたというのか❓

ウ~ム。

 

 

 

認知症”dementia"の人は

どんな次元"dimension"の

世界に生きているのか❓

 

一方、

認知症ではない人間は❓

 

認知症ではない凡人は、

過去にとらわれ、

未来の心配ばかりしている。

 

決して

「今」、この瞬間を

つかむことはできない。

 

ただ今だけに集中して

一つのことだけに取り組む

なんてできない。

 

仕事でも、食事でも、

一心に歯をみがくことさえ、

健康(?)な凡人はできない。

 

人と話していても、

仕事のことだったり、

相手の服装を値踏みしたり、

昼飯に何を食べようかなどと

考えたり・・・

 

相手の言葉は耳の奥3ミリから

先には届かない。

 

いわゆる健康な凡人には

今を生きることは難しい。

 

認知症の人たちは

過去も未来もない

今の世界に生きているのか?

 

Here and Now

「いまここに」の世界に

生きていると言えるのか❓

 

その瞬間、瞬間を生きる。

まるで悟りを開いたひとの

ようにも思われる。

 

ただ、

認知症の人にとって

過去に降りる梯子も

未来に上る梯子も

外されているということか❓

 

 

 

母をデイサービスや老人施設

に通わせようとする試みは

何度やっても

うまく行かなかった。

 

ヘルパーさんに来てもらう

こともできず、

頑固な母を

なんとか誘いだして

ケアサンタ―の前まで来ると

身構えて、

 

「あそこは老人ばかりで

変なことしているのよ。

何をされるかわからないし、

私には関係ない所よ」

と、絶対に中に

入ろうとしなかった。

 

区役所から通知が来たから

と嘘をつき

デイサービスに連れて行けても、

翌日、迎えの人が来ると

前日のことは忘れていて、

頑なに拒絶し、

迎えに来てくれた人は

仕方なく帰っていく。

 

<つづく>

 

 

 

 

 

自作の曲です。

新たに生まれるために

作りました。

 

              

 

ありがとうございます

あなたに雪崩のように

良きことが

降ってきますように❣

 

 

 

 

 

★小説『イパネマの猫』-その6-★

ありがとうございます。

徘徊する認知症の母を

捜索する物語です。

 

 

 

★『最後の鬼ごっこ』★

<その6>

 

自転車を押しながら

母と一緒に

この辺りでは明るくて

夜でもすぐに分かりそうな

コンビニの前まで戻った。

 

それから公衆電話で

この近辺のどこかで

母を捜しているはずの姉に

母が見つかったことを

伝えた。

 

数分後、

姉は私たちのいるコンビニの

駐車場までタクシーで

やって来た。

降りるとドライバーに

待つように言い、

小走りでこちらに

向かってきた。

 

 

「こんな所にいたの❔

さっきまでGPSが

示してた所とずいぶん

離れてるじゃない❢」

 

「あぁ、このGPS、

ちょっと実際の場所と

誤差がある

みたいなんだ」

 

「ちょっとって、

かなりの誤差よ❢」

 

「うん。

このGPSは

グローバル・

ポジショニング・システム

の略じゃなくて、

ゴサーアル・

(誤差ある)

ポジショニング・システム

の略なんだ。

アハハ!・・・」

 

姉はつまらなそうな顔で

私を無視して

母の所へ行った。

 

 

「お母さん、

歩き疲れたでしょ。

さぁさ、帰りましょ」

 

と、

姉は母の手をとろうとする。

母はまだ姉のことが

誰だか分からない様子。

 

「え~と、

あなたは鶴子のお友達

でしたっけ❔」

 

「私は、

鶴子の妹の、亀美よ❢

カ、メ、ミ、

よ❢」

 

「へ~え、

そうなの❔

カメちゃん❔」

 

「そうなのよ❢

さっ❢

おうちに帰るわよ」

 

姉は母を抱え込むようにして

タクシーの後部に押し込み、

自分も乗り込んだ。

 

「じゃぁ、お母さんを

送っていくわ。

お疲れ様❢」

 

タクシーは

母の住むマンションのある

杉並方面に走り去った。

 

 

さて、

残された私は携帯の電池も切れ

小銭も切れて

家族に連絡もできず、

はるか遠く自宅のある

西東京市までどの道を

通って帰ればいいのか❔

 

薄暗い街灯の下で

紙の地図を取り出し、

大体の見当をつけて

自転車を走らせた。

 

しばらく自転車で走ると

学校らしき建物の前に出た。

 

少し気になって

校門の学校名を見る。

「第一中学校」とある。

あれっ❔

さっき探していた学校だ。

 

一体、どういうことだ❔

 

母を見つけた場所とは

1キロ近く離れている。

 

GPSの誤差なのか❔

老人の足がそんなに

速いのか❔

ウム、謎だ。

 

それに、

私は道を間違えたのか❔

 

この中学の前の道は

さっきコンビニ近くの

母を発見した道とは

全く違っていた。

 

例の橋の近くで会った

エラそうな態度の若造に

教わったのとは違う角を

曲がったのだろうか?

 

そんなはずはない・・・

 

確か私はこの学校の場所を

アイツに尋ねたはずだ。

 

もしかして、

アイツは学校ではなく

母の居場所を

教えてくれたのか❔

 

いや、そんなバナナ・・・

馬鹿な。

アイツに

人を捜しているなどと

一言も言っていないはずだ。

 

とにかく

運が良かったんだ

と、

考えよう。

 

<つづく>

 

 

 

 

 

 

学生時代好きだった

ブラッドベリ―の短編集

”The October Country” 

に影響を受けて作った

曲であります。

よかったら聴いてください。

 

               

   

 

ありがとうございます。

あなたに雪崩のように

良きことが

降ってきますように❣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★小説『最後の鬼ごっこ』-その5-★

ありがとうございます❣

徘徊する認知症の母を

捜索する物語です。

 

★『最後の鬼ごっこ』★

<その5>

 

その作業服の若い男に尋ねる。

 

「あのぉ、

第一中学校に行きたいんですが、

どう行けばいいか

分かりますか❓」

 

「ああん、え~と、

この道を戻って

最初の角を

左に曲がって

真っ直ぐ行きな❣」

 

今どきの若者は

口の利き方がなっておらん、

と思いつつ

 

「あれ❓

こっちの方かと思ってたんだが、

・・・

こっち、北ですよね❓」

 

「いいや。北はあっち❣

方向感覚が欠如しとるな…

この道を50メートル位

戻れ❣

そしたら角に

お地蔵様が立ってるから、

そこを左に曲がって

真っ直ぐ行きな❣」

 

なんだこいつ。

無礼な話し方に少し、

いや相当カチンときた。

言われんでも

方向音痴なのは分かってる。

うちの息子と同じくらいの歳

だと思うが、

丸ぶち眼鏡かけて、

薄ら笑いを浮かべてやがる。

 

「それからな、

コンベニだったかな、

とにかく店があったら

右に曲がり少し行ったら

・・・いるよ❣」

 

コンビニだ。

なまってるな、こいつ。

マイナス1点❣

それに学校だから「ある」だ。

マイナス2点❣

と思いながら

 

「はぁ、ありがとうござい・・・」

 

わざと語尾を不明瞭にして

態度のでかい若造に

感謝した。

 

「ああ、それから砂利道では

自転車を降りて押して行きな❣」

 

「はぁ、どうも・・・」

へぇ❓何だって❓どこに

砂利道があるってたんだ…

 

今来た道を戻りながら

『地蔵を左に曲がって

コンビニ右。

ジゾー・レフト、

コンビニ、ライト❣』と、

心の中で繰り返していると、

 

後ろから

「よろしくな❣」

と、さっきの若造に言われた。

 

なんなんだ❣アイツは。

 

偉そうな若造に言われた通りに

自転車を走らせた。

地蔵の角、ターンレフトして、

コンビニ、ターンライトして…

ほんの少し行った所でビックリ❣

 

中学校を見つける前に

『目標』を発見したようだ。

暗い夜道をよろよろ歩いている

老女の後ろ姿❣

 

近づいてみると

我が母親のようだ❣

なんともラッキー❣

 

よろよろ歩く小さな背中に近づき、

洋服や鞄から母であることを

確信して声をかける。

 

「あれっ?お母さんじゃない❓

ねぇ、何処へいくの❓」

 

少し驚いた様子で母は、

「あっ、あっ、あのお、

シュウ君❓

あなた修一君よね❓」

 

「そうだよ。お母さん、

一体こんな所で何してんの❓」

 

「あらぁ、ちょっと、

あれしてね。

あなたに会えてよかったわ。

もう私はダメかと思っていたの」

と、

母は最近の決まり文句を言う。

 

<つづく>

 

 

自作の曲です。

迷走、いや瞑想にお使い下さい

 

              

 

ありがとうございます

あなたに雪崩のように

良きことが

降ってきますように❣