韓国のフリーのライターさんが書かれた、ユチョン主演「海霧」のレビュー記事を、知人が英訳してくれたので、ざっくりと日本語訳しています。
登場人物のそれぞれの考察が面白いと思い、ご紹介したいと思います。
※ただし、あらすじ、映画の結末に触れる記述が満載なので、知りたくない方はご注意ください。
▼ユチョン[海霧]の一考察
<ヘム>根源的な問い「人間とは一体何か?」

誰もが、思っている自分の姿と異なる、一度も見ることがなかった新たな一面を発見することがあります。人はさまざまな感情を持っているものです。
今夏、最も期待作だった<ヘム>は、人間の意外性を表現した映画です。人間の隠された暴力性、欲望などを表現しながら「人間とは一体何なのか」と、根源的な問いを投げかけてきます。
この映画はポン·ジュノ監督が制作した最初の映画で<殺人の追憶>のシナリオを書いたシム・ソンボ監督がメガホンを取りました。
劇団ヨヌの創立30周年記念作「ヘム」を脚色した映画「ヘム」は、2001年に実在した第7太倉号事件をモチーフに描かれています。第7太倉号事件とは、中国人と朝鮮族が、太倉号に隠れて全羅南道・麗水に密入国を試みる過程で窒息死し、船長と船員が死亡した26人を海に捨てた事件です。

映画<ヘム>の主人公は6人の船員と1人の密航者です。船長のチョルジュ(キム・ユンソク)はかつては一晩で百万ウォンを使うほど、稼いでいた船乗りでした。しかし、やがて政府の減船事業で廃船の危機に追い込まれたチョン·ジンホ号で、細々と食いつなぐ状況となります。
無能な夫を無視して、妻は遠慮なく浮気をしている始末。
チョン・ジンホの船主とその妻には、船長のチョルジュとチョン·ジンホ号が悩みの種であり、しかしチョルジュには5人の船員への責任があり、苦しい立場です。
チョン・ジンホは、ここを直せば、あっちが壊れるといった、古い鉄柱が傾くようなただの古船。しかしこの船が消えれば、自分の存在をどこで支えるべきか分からないほど、チョルジュは船とともに生きてきて、船は彼の人生そのものです。
そのため、チョルジュの船へのこだわりは、最終的に自分の存在への執着を意味すると見ることができます。
一等航海士である甲板長のホヨン(キム・サンホ)はまた、船長とあまり変わりがありません。船長が船にこだわるなら、ホヨンは船長の命令に集中する人物です。
甲板長が船長の命令に従う存在、つまりホヨンは自分の役割に忠実な人物だと言えるでしょう。
一方、機関長であるワンホ(ムン・ソングン)は最も特別な存在です。映画では、彼は借金の催促に追われ、チョンジンホの機関室に隠れて生きているため、ワンホを世捨て人として表現しています。
船員たちの間では明らかに存在するが、外の世界の人からは存在していない人です。
しかし、彼は慈悲深く、良心の支配を受ける人です。
他の船員たちが目に見える存在であるのに対し、外から存在が見えないワンホが、このような良心的な人物というのは、多くの意味を込められているようです。
そしてワンホは最も弱い存在でもあります。船で事件が起こった時、船員の中で一番最初に死にます。
これは、良心というものは、最も深いところに隠れていて、最も弱い感情でもある、という意味で表現されていました。
そして人間の欲望が活火山のように燃えるような状況の世界になるなら、良心は、簡単に消える程度の微弱な存在になり得るようです。
映画では、人間の最も弱い良心をワンホという気が弱い人を介して形象化しています。

残りの人物は、欲望を意味します。ローラーのギョング(ユ・スンモク)は、物質的欲望に取りつかれていた人物であり、船員チャンウク(イ・ヒジュン)もまた、女性に夢中にあり、末っ子の船員ドンシク(パク・ユチョン)は、まだ純粋な感情を所有しているものの、それはまた、チャンウクの欲求と変わりません。
チャンウクの欲求が明示的であれば、ドンシクの欲求は「愛」という言葉で表現され、単語や包装紙が違うだけで、本質的には似ているのでしょう。
しかし、6人の乗組員は、実際には一人の人物を表していると見るのが正しいようです。
ワンホの慈悲心と、残りの人物の欲望は、すべてのひとりの人間が持っている感情です。
このようなさまざまな感情や欲望、そして本能、義務などを具体的に表現するために、それぞれの人物に照らして見せてくれたのであって、実際には一人の中にある感情です。
乗組員一人一人のキャラクターを使用して、人間の本性を探りながら「人間は果たしてどのような存在なのか」との質問を投げかけています。
本論を言えば、映画の中で得られた答えは、人間は多様性を持った存在ということです。
愛という欲望のためには、非常に破壊的で残酷になることもあるのが、人間だと見ることができます。
このような人間の二面性を最もよく示している人物が船長であるチョルジュと、末っ子船員ドンシクです。
チョルジュは先述通り、妻の不貞にも目をつぶるほど、寛容な人物であり、また、船員たちの生活に責任を持ち、温かく接している人物です。
欲などなく、ごく普通にのみ見えていた人なのに、船で不慮の事故が起きたときに見せた姿は全く予想外でした。
これ以上の漁ができない船は、中国で密航者を乗せて運ぶ仕事を引き受けましたが、運が悪く監視船に遭遇したため、魚を入れる倉庫に密航者をすべて押しこんでいました。
ところが、古い船のクーラーが故障し、フロンガスが倉庫に流れ入り、瞬く間に倉庫内に閉じ込められていた密航者26人が全員、窒息死しました。
あまりにも多くの人が死んだのです。そして、船長はその人達を海に投げ捨てることを決め、船員たちに、魚の群れのえさとなるよう、切削をして海に捨てるように命じます。
船員たちは、生き残る方法が、この道しかないということを知っているので、船長の命令を黙々と従います。
しかし、機関長ワンホは良心の呵責のせいで、意識が混濁し始めます。死んだ密航者と話しをしたり、この事件を警察に通報するとも叫びます。
そしてこうなってしまったワンホを船長は殺すことにし、彼は突如としてキラーに急変します。この時から、船長の狂気は暴走し始めます。
ワンホを良心と慈悲の心と前述しましたが、人間が持つ良心を、自分の心から切り捨ててしまう表現として、まずワンホの死で表されているようです。
しかし、船長がワンホを殺す現場を見ていた者が、末っ子の船員ドンシク(パク・ユチョン)と、彼がかくまっていた、密航者の一人の女性ホンメ(ハン・イェリ)です。
ドンシクは溺れるホンメを助けて以来、好意を寄せていたので、機関室にこっそりと隠していたところ、他の密航者が全員死滅した後、彼女が生存していることを他の乗組員には決して知られてはいけない秘密でもありました。


ところが船を守るために、船長がワンホを殺す暴君と化した時、ドンシクも似たような反応を見せます。愛する女性を守るためにドンシクは良心と思いやりの気持ちをしまいます。
彼は甲板長を殺し、チャンウクとギョングも殺そうとし、最終的に船長まで・・・ホンメという欲求が割り込んできた瞬間、ドンシクは素朴で善良だった人間を、残酷な殺人者に急変させたのでした。
船と、ホンメという違いがあるものの、ドンシクと船長は驚くほどの姿を示しています。
欲望が割り込んできたとき、人間は急変することができる存在でもあると伝えているようです。

映画のタイトル「ヘム」は、海の霧という意味。海の霧が襲った海のように、分別をつけることができないのが人間である、ということでしょう。
チャンウクとギョングのように、完全に欲望に率直な人物であっても、ワンホような良心を持つ人物である可能性があります。

チョルジュとドンシクは、ある瞬間バランスを崩して崩れるように設定された人物です。
その後、人間をモンスターにした欲望は、一体人間に何を与えるか?
船に執着していたチョルジュは船と一緒に海に沈み、ホンメを守るために仲間たちをすべて殺したドンシクはホンメとともに陸に戻ることになります。
ところが、ホンメはドンシクを置いて姿を消してしまいます。

追求してきた欲望が、最終的に自分自身を裏切ったという、意味を込めているシーンでした。
最後のシーンで工事現場の日雇い労働者として生きてきたドンシクは、中華料理屋で、他の人の妻となったホンメの後ろ姿を発見します。
しかし、ドンシクには、自分の命を投げうって仲間たちを殺しながら守ったホンメという存在は、このように虚しいものでした。
<ヘム>が終わってエンディング・クレジットが上がっているのを見ても、簡単に立ち上がることができませんでした。
濃い海霧で道に迷ったかのように混乱して湿った感じだったからです。
見てはいけない人間の内密の部分を見てしまったかのように。
キム·ウンジュ/フリーライター
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このレビューを読んで、アカデミー賞のエントリー作品に選ばれた理由や、海外の映画祭で高評価なことが、少し分かった気がしました。
他のヘムのレビュー記事で、血が飛び交う恐ろしい場面を想像して鑑賞したところ、
そこは、世界のポン・ジュノらしく、スマートに映像にしていた、とありましたので、
ハードなシーンの表現も、少し安心はしていますが・・・
それにしても、やはり緊迫した映画の印象がしますね。
ともあれ、早く映画館で見たいです。
すでにご覧になったユチョンペンさん達の話では、一様に、ユチョンの演技がすばらしかったと絶賛でしたので^^。


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