“病なき世界”の実現を目指して
史上空前の大プロジエクト
ーー鍵はあなた自身の手に――
西暦二千年までにすペての人に健康を
この史上空前の大理想スローガンに掲げる十箇条の宣言(アルマ・アタ宣言)が読
み上げられた時全世界は”病なき世界”の実現を目指して歴史的第一歩を踏み出し
た。
宣言文を読み上げたのは、ロングドレスにキラキラと輝く金のイアリングで正装し
たデーヴィス女史《アフリカ北西部シエラレオーネの黒人女生医務局長》キングズ
イングリッシュのよく通る声は一句一句会場を圧し、全世界に木霊した。
まさに人類の前途に相応しい荘重なセレモニーであった。
時に一九七八年九月十二は旧ソ連はカザフ共和国(現カザフスタン共和国・人口千
四百万の首都アルマ・アタ‥‥‥。
かってシルクロード北路の要衝地として栄えたオアシスの廃虚に、旧ソ連政府が近
代技術の粋を集めて忽焉と復興した人口九十万の新輿オアシス都市。その一角に偉
容を誇る超近代的なレーニンパレスの国際大会議場。
この日、WHO(国連世界保健機構)とユニセフ(国連児童救済基金)の主催で、
世界百二十四カ国の代表たち千七百余名が、一週間の討議を終えて、この会議場に
続々と参集した。
議長は旧ソ連の保健大臣ベトロプスキー教授。運営はマーラー国連事務総長(デン
マーク人)。参集した各国政府代表には各国の保健大臣が七十名もギラ星のように
並び、日本政府代表は厚生省医務局長(当時)、大谷藤郎博士の一行が参加した。
この堂々たる国際会議の総意として”病なき世界”の実現を目指す“アルマ・アタ
宣言”を可決。同時にこの前人未踏の大プロジエクトを達成するための具体的な指
針として、従来の各国保健政策の転換を求める二十二項目の緊急勧告を、全世界に
向けてアッピールしたのである。
一
“病気治し”から“健康づくり”へ
周知のように、今、地球上ては四O余億人の南の途上国民は《貧困と飢え》に苦し
み、一〇億の北の先進国民は(繁栄と飽食》ゆえの死病で悩み抜いている。
この極端な南北格差(食の偏り)の狭間で《病なき世界》を目指す健康戦略が策定
されたわけだが、その基本的考え方は、これまでの医療一辺倒(病気の治療・予防
)の保健政策を一転して、病気にならないための保健政策 “プライマリ・ヘルス
・ケア(PHC)”に転換せよ、ということ。“病気治し”から“健眠づく”へ、
ということである。この保健政策(PHC)を要約すると‥‥‥。
(1)国民の“健康づくり”に必要な物的条件(衣食住全般にわたる生括環境)の
整備及び情報サービスの提供(どうれば健康になれるか、という保健科学の研究・
教育・啓蒙活動)を最優先させる政策に向けて速やかに転換すること。
(2)その前提として、住民一人一人が“自分の健康は自分で守る”(セルフ・ケ
ア)という自覚を持つこと。
この二点に絞られる。
1項については、アメリカ及び日本においても『食事目標』が示され、具体的路線
が着々と敷かれていることはすでに述べた通り。残る課題は2項である。
即ち、住民一人一人が、“自分の健康は自分で守る”というセルフ・ケアの自覚を
、果たして持ち得るか、否か、ということが“病なき世界”を実現する鍵なる。
例えば、本書で紹介したアメリカの「食事目標」にしても、国民によって実行され
なければ絵に描いた餅で何の役にも立たない。
同じように、国連が掲げた大理想も住民にやる気がなければ掛け声だけの単なるお
題目として空念仏に終わってしまうからだ。
この問題について、WHOの元アメリカ代表として国連の事情に明かるいディッカ
ー博士(故人)はこう解説する。
「世間では、医学が発達すれば病気が無くなるように考えているが、この考え方は
”刑務所や消防隊を増やせば、犯罪や火事が無くなる”と言っているようなもので
、物事の因果関係を無視した馬鹿気た発想であり錯覚に過ぎない。
今、文明社会において最も大切なことは、健康を作り上げるのは医師でも薬でもな
い。自分自身である――という確固たる自覚を国民の一人一人が持つことである。
そして、“そのため(健康づくり)にはどラすればよいか?”という問いに対して
、科学的で、かつ具体的な指針を明示し、各自が自信をもって“健康づくり”が出
来るように教え導くことである」と。
この路線こそアメリカ上院栄特委が二年間の歳月と世界の叡知を結集して得た『M
委レポート』の結論であることは既に述べた。
そして、その発表から僅か一年八ケ月後――。 この路線は“病なき世界”の実現
を合言葉とする現実の国際政治の緊急課題として、世界各国の政府代表によって承
認されたのである。
既にZ旗は掲げられ、世界は”病なき世界”の実現を目指してきしみ音を立てなが
ら苗旋回した。
今こそ頭の切り替えを
今述べたように、健康づくりの鍵は、あなた自身の発想の転換――、にこれまでの
医薬に頼る他人任せの医療観から脱却して、あなた自身の責任において“自分の健
康は自分で守る”というセルフ・ケアに向けて自己変革できるか否か、にかかって
いるのだ。
言い換えれば、あなたの生命を他人の手(医療)に委ねるか、あなた自身の手(健
康づくり)に取り戻すか、ということで、まさに自分との戦いでああ。
既にその戦いを宣するラッパ(アルマ・アタ宣言)は、国連の名において全世界
に鳴り響き、病なき世界への道は、実現実の政策課題(PHC)として高らかに掲
げられた。その扉(心身の健康)を開く鍵は、あなた自身の手(自己変革)に握ら
れているのだ。
今すぐ頭を切り替え、健康づくりの道を歩むか、医薬に頼って病に倒れるか‥‥‥
。
あなたの命運は、この何れを選ぶかにかかかっている。同時にそれは先進諸国民共
通の課題でもあるのだ。
ともあれ、いま先進諸国民は一見すると健康で長生きしているかに思える。あなた
もその一人である。だが、その実本は文明病という名の死病(慢性病)に取り愚か
れて病人が氾濫し、長寿とは名ばかりで、寝たきり老人やボケ老人が日々増加して
入る。そしてその医療費を賄うために国の経済が破産寸前の状態に追い込まれつつ
ある。
薬毒を抜き、今の生活パターンを改めない限り、遅かれ早かれあなたもその一員に
加わることは必定であり、そのリスクは日増しに増大しているのだ。あなただけが
果たしてその例外でありうるであろうか。その保証はどこにもないし、破局は刻々
と近づいてい。る。
この警告を“ノアの方舟”の教訓として受け止めるか、イソップ物語の狼少年”の
デタラメと受け流すか、二者択一の岐路である。
西欧医学か民俗伝統医学か――医学の正統性をめぐる対立
ところで――
この“病なき世界”を実現するための具体的な適正技術について、途上国と先進国
とでは考え方に大きな違いがあることを知っておかねばなるまい。
その最大の焦点は、現代西欧医学を世界の正統医学として承認するか、否か、とい
うことである。
その対立を浮きき彫りにしたのが、プライマリー・ヘルス・ケア(PHC)をめぐ
る旧ソ連(先進国)と中国(途上国)の論戦であった。
旧ソ連は「近代医療技術を推進することが正統的方策である」との北の論理を主張
し、その実証地であるアルマ・アタを国際会議の候補地に推した。
対する中国は「近代西洋医学の成果を誇示し、それを全人類に押しつけることは、
民族の主体性や伝統医療を蔑視する偏見であり、かつ医療経済の効率を無視した虚
構の論理である」との南の論理を展開。中国一三億の人民が継承する中医学の現代
的成果を立証する北京こそ開催地に相応しいと応酬した。
まさに医学の正当生と普遍生をめぐる南・北の対決であった。
この論争は、マーラーWHO事務総長(当時)の・・・・(採用はしないが、適用
せよ)との有名な調停で収拾され、開催地はアルマ・アタに決定したが、中国はこ
の調淳に合意せず宣言・採決をボイコットして、中医学の主体性を貫いた。
こうして国連WHOを舞台にして世界の医学は、西欧医学の一極支配時代は終わり
、中医学(一三億人)を始め、インドアーユル・ヴェーダ医学(八億人)や、ユナ
ニ医学(イスラム圏一〇億人)など民族伝統医学の自決権を認める医学の多極化時
代を迎えたのである。
既に現代医学の虚構性は『M委レポート』によって明らかにされ、さらに中国医学
の抬頭ど国連WHOにおける東・西医学の激突によって強烈なパンチを受け、少な
くとも世界の支配力の半分は失った。
こうした混乱の最中、米国議会技術評価局(・・・)は、『ガンの非正統療法』(
・・・・)と題する衝撃的なレポートを発表(一九九〇年四月)。この中で、
現在の正統的ガン療法(近代医療)は科学的に証明されたものではなく、また有効
生においても非正統療法(民間療法)と比べて大差がないことなど、その虚構性を
明らかにした。
そして非正統療法を蔑視するのは権威主義に基づくもので、偏見を捨てて、公的な
助成体制を早急に整えるよう求めた七項目の提案を政府、ガン研、医学会に提出し
た。
この米国議会の動きは、先進国における現行医療体制の見直しを迫るもので、これ
まで不当に蔑視されて来た民族伝承医学や民間療法など非正統療法の再評価と復活
を促すことになろう。
今、まさに医学の夜明けである。
医療選択の自由権
日本人は明治七年以来、西欧医学を正統医学として受け入れて以来、僅か百年足ら
ずの間に、それにどっぶりとつかり、医学と言えば西欧医学だけと信じこんでしま
った。
だが、世界は広い。インドにはアーユル・ヴェーダ医学あり、中国には中医師が厳
然として西洋医と肩を並べて存在している。そしてインドと中国の人口は、それぞ
れ世界人口の一六%と二〇%、合わせて三六%を占める人口超大国。しかもアジア
・太平洋地域の総人口は世界人口の半分(五五%)を占める。
この中に日本は含まれておらず、日木は既にアジアの一員ではなく、青い目の仲間
に入っているのだ。しかもそれを得意にして‥‥‥‥。
その結果は、病気まで真似て欧米化、まさに“病紅毛(膏盲)”とはこのことだ。
ともあれ、民族固有の伝承医学をあっさり捨てたのは世界でも日本民族だけ。お隣
の韓国も台湾も、日本が武力統治した時代は西洋医学を正統医学として強制された
。が、日本の敗戦と共に伝統医学を直ちに復活、東・西両医を並立させて民族自決
の道を歩んだ。国民は自分の意志で好む医学を選べるのだ。
“医療選択の自由権”である。
この意味で、今の日本人は“医療選択の自由”を奪われているのだ。死ぬ時は嫌で
も西欧医学の手続きで“死亡診断書”が必要となる。何故東洋医学で死んではいけ
ないのだろうか。何故西洋医学で死なねばならないのか、とっくりと考えてみるべ
きであろう。
“医療の独占”、ここに薬禍と医療禍が発生する構造的欠陥がある。
西欧民族は、自分達の生んだ医学の恐ろしさを知っている。”薬は毒”と教えられ
ている。そして医療の暴走を防ぐため“医薬分業”と“対診制度”(複数の医師に
よる診断)という二本立てのチェックシステムが社会制度として定着した。
日本はこの両システムとも全く機能していない。これは恐ろしいことである。
この問題は拙著『松本英聖医事論集』(医学と生命)で詳しく述べたが、兎に角医
学は一つ(西欧医学)だけではない、ということだけは、ぜひ知って頂ぎたい。
“病なき世界”の実現を目指して、今WHOを舞台に南(民族伝統医学)と北(現
代西欧医学)とが共存しているのだ。
先進国は“医学の普遍化”を旗印に、自分達の医学を正統派として押し付けようと
するが、途上国は真っ向からそれに反発し、民族固有の伝統医学を頑なに守り続け
ている。
もし、あなたが“彼らは貧しいから‥‥”と思うようなら、あなたの考え方は、知
らず知らずの中に、自分の考えだけが正しいとして人に押し付けていることになる
、”裸の王様”を決して笑えないのだ。
何れの医学を選ぶも個人の自由他人が兎や角言うべき筋合いのものではない。
しかし、世界は広い、ということだけは肝に銘じておこう。そして、今や世界の檜
舞台では、西欧医学は既に少教派になっていることだけは忘れないで欲しい。
atogaki
あとがき―――結びに代えて
十年一昔と言うが、アメリカの『食事目標』が発表されてから早十年になる。
この間に世界の状況は一変し、東西冷戦構造を基軸とした既成体制は音を立てて崩
壊し始めた。日本でもパブルがはじけて、これから先何が起きるか、行く先は全く
不透明である。
十年前にこの激震を誰が予測し得たであろうか。
この激動はやがて教育、宗教など凡ゆる上部構造に波及するであろう。医学・栄養
学もその例外ではあり得ない。
例えば、食物と健康に関する研究は、アメリカの『食事目標』を転機にして長足に
進歩し、これまでのビタミン・ミネラル剤に代わって、未精白殼物や新鮮な野菜類
の効用が次つぎと明らかにされて、古き良き時代の食生活(民族伝統食や郷土食)
の優秀生が改めて見直されて来た。まさに医学・栄養学の革命的変化である。
一方この間に世界の医学の潮流は、国連WHO(世界保健機構)を舞台にして、西
欧医学一辺倒の一支配は終焉し、中医学(一三億人)、インド医学(八億人)、ユ
ナニ医学(イスラム圏十億人)など、世界三十億人以上が今なお信奉する民族伝統
医学の民族自決権を認める医学の多極化時代が開幕した。
医学は一つだけではない、ということである。
この背景には医療費負担が先進諸国の経済を圧迫し、国の財政を破綻寸前に追い込
んでいる、という退つ引きならない深刻な事情があることを忘れてはなるまい。
既にアメリカの健保財政は破綻し、マクガバン・レポートが予測したように現代医
療は医療経済の面から崩壊し姶めたことはご承知の通りだ。
日本でも病院倒産が囁かれ、看護婦不足と相侯って医療経営は日増しに悪化の一途
を辿りつつある。
こうした医療危機の最中、MRSA(耐性菌)による院内感染は「白亜の殿堂」の
威信を足下から揺るがし、エイズ禍は医療の発達を潮笑うかのように無気味に増加
する。
まさに現代西欧医学の没落である。
だが、この廃虚の中から次代を開く新しい医学が出現する。
破壊と創造は同時進行であり、それは民族伝統医学の復活と共に、『内なる霊性』
に目覚めた人々による心身両面の健康革命から始まるであろう。
真の医学は「人を病から解放」し「病なき世界」を実現する「道」である。
その「道」とは何か?
次巻(「松木英聖医事論集」第二巻医学と生命)において、この問題を提起し、「
医とは何か?」という命題について読者諸賢と共に考えてみたい。
一九九四年六月吉日
著者
松本英聖著・医事評論集(全六巻)/第一巻----食と生命
ーー病なき世界の実現を目指してーー/ISBN4-906255-17-5/\3000
1994年6月15日 第一刷発行 技術出版(株)発行 03(3707)3766
以上、是非とも本書を直接読んで頂き、真の健康とは、真の医療とは何かを掴んでください。(akyonn)