悪食 80点
今年 52本目
監督 月川翔
原作 清武英利
脚本 林民生
出演 大泉洋
菅野美穂
福本莉子
川栄李奈
新井美羽
満島真之介
戸田菜穂
有村架純
松村北斗
光石研
IABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテル誕生の実話を映画化。
渋谷TOHOシネマズへ。
鑑賞結果、諦めない気持ちが偉大な成功をもたらす。そんな綺麗事だけじゃない人の気持ちが素晴らしい。
ここからネタバレ満載でいきますからご注意を⁉️
1970年代、ビニール製品を作る小さな町工場を経営していた坪井宣政(大泉洋)と妻、陽子(菅野美穂)には生まれつき心臓疾患を抱えた次女、佳美(福本莉子)がいた。
佳美の病気を治してやろうと坪井は日本中の心臓外科医を回り、手術依頼をするのだが引き受けてくれる医者はいなかった。
諦めきれない坪井は、日本がダメならアメリカだとアメリカの心臓外科の名医にすがるが、助ける方法は人工心臓しかないと言われてしまう。
しかし人工心臓はまだ実用化されてなく研究段階だった。
坪井はそれならば人工心臓の研究機関に寄付をして研究の実現を目指そうとするが、それでも30年はかかると言われてしまう。
佳美は医者から余命は10年だろうと言われていた。
諦められない坪井はならば寄付しようと貯めていたお金で自分が人工心臓を作ると言い出した。普通なら反対する妻、陽子も「その手があった」と賛成した。
それから坪井は日本の人工心臓の研究でトップを走る大学の研究室に協力を仰いだ。最初は断る石黒教授(光石研)だったが坪井の熱意に負け、共同研究を約束してくれた。坪井もまた心臓疾患の勉強を始め、知識を豊富にしていくのだった。
坪井(大泉洋)は8億もの資金調達をしていたが、研究は一向に進まなかった。それどころか、石黒教授(光石研)から一方的に研究の中止までもが言い渡される。先のない研究に時間と人員を避けないというのが大学の本音だった。
そして佳美()の状態も悪化していく。主治医からは明日、人工心臓が出来たとしても手術は出来ないと。
佳美の身体は手術に耐えられないほどの状態になっていたのだ。
絶望的になる坪井だった。
佳美もそのことに気付いていた。そして坪井に「約束をして欲しい」と言った。「私の代わりに助けられる人を助けて」と。
「佳美のそばにいてやって」と言う陽子(菅野美穂)の反対を押し切り、佳美と約束したことを果たそうと坪井はまたもや諦めずに走る。
当時の日本ではバルーンカテーテルはアメリカからの輸入に頼っていた。医者もまたアメリカ製があるのだから国産にする必要はないと思っていた。しかしアメリカ製は日本人の血管に合わず、事故が起きて死者が出ていた。
人工心臓の協力を仰いだ石黒教授(光石研)に共同開発をしようと願いでても門前払いだった。
しかしその話を聞いた大学病院の医者になった富岡(松村北斗)が手を挙げたのだ。
富岡は以前に人工心臓など出来るはずがないと石黒教授の研究室を1番に辞めた男だった。しかし坪井(大泉洋)の熱意と自分もその研究をしていた過程から、これは自分がやる仕事だと思ったのだ。
石黒教授は呆れながらも、責任を取るという富岡に任せた。
そこからまた坪井と富岡の苦難が始まる。
しかし人工心臓を作ろうとしていた知識と技術は無駄ではなかった。
2人はとうとうIABPバルーンカテーテルを完成させたのだ。
坪井は大量の実験データをもとに、石黒教授にアプローチをしたが、石黒教授はまたもや協力を拒んだ。
良いものが出来ても使ってくれないのでは意味はないのだ。
富岡は石黒教授認可前のIABPカテーテルを無許可で手術で使った。手術は大成功だった。
そして坪井は若い医者にアプローチする。若い医者達は無料で貰ったIABPバルーンカテーテルを使い出したのだ。
その評判が大学の外科部長の耳に入り、石黒教授にそのカテーテルを使ってみろという指示が出た。
石黒教授はバツが悪そうに坪井を研究室に呼び出した。
部屋に入ることを促されても坪井は「私は出禁の身なので入れません」と答える。石黒教授は出禁を取り消し詫びた。
坪井は急に笑顔になると、「若い医者には無料で渡しましたが、石黒教授ほどになればお高く買っていただけますよね?」と話し出した。
大学病院は坪井の作ったIABPバルーンカテーテルを正式導入した。
IABPバルーンカテーテルは大評判になり、以前、石黒教授の元で研究を共にしていた医者からの大量発注も貰った。
坪井はやり遂げたのだ。
坪井は成功を佳美(福本莉子)に報告する。
佳美はその報告を聞いて安心したように永遠の眠りについた。
坪井達が作り上げたIABP(大動脈内バルーンバンピング)バルーンカテーテルは、世界で17万人もの命を救い、今も救い続けている。
その功績が認められて厚生省から表彰されることになった。
記者(有村架純)から取材を受ける坪井(大泉洋)。
「この功績をどう思いますか?」という問いには何も答えられなかった。
会場に入る前に記者は声を掛けた。「私がこの取材に手を挙げたのは、私の心臓が坪井さんの作ってくれたバルーンカテーテルで動いているからです。命を救ってくれてありがとうございます」
坪井は静かに笑いながら「自分の娘も助けられなかったのに、功績も何もあったもんじゃないんですけどね」と告げると
坪井と陽子は会場へと向かった。
エンド。
娘の為に時間も金も全てを捧げて救おうとした家族の話です。
父親の諦めない気持ちは執念とも言える。それでも現実は残酷だ。
どんなに頑張っても娘の命は助けられなかった。
娘との約束で娘の代わりに助けられる命を救うと決めて、走り続けた坪井の気持ちを考えるにこれは辛いだろうと誰もが痛切に感じられる。
しかしそれに縋らないと生きる希望さへも失ってしまう気持ちも坪井にはあったのだ。
だからこそ走り続けた。成功のその先に自分が本当に願う勝利はなくとも。
そんな父親を大泉洋は、見事に演じている。それを支える妻役の菅野美穂。姉妹役の川栄李奈と新井美羽、役者陣は素晴らしかった。
この手の映画でよくある諦めなかった気持ちは必ず報われる。という構図はこの映画には無い。
それどころは現実的には地獄なような悲しみと虚脱感に襲われる話だ。
それでも諦めかったのは、娘との約束を唯一生きる糧にしたから。
死にゆく娘に夢中になり、生きている娘達に向き合っているかというと、そうでもない。そこは問題だ。しかし理解ある家族に支えられたからこその偉業なのだろう。
しかしそこに晴れやかな気持ちはない。
娘を救えなかった絶望感を心の奥底に残したままの父親を描いている。
涙なくしての鑑賞は難しいかもしれない。大泉洋に泣かされるのは癪だという人もいるかもしれない。
しかし大泉洋の演じる父親に傾倒する悪食はいました。
是非、劇場で。