ぼくはみみずくん その10 かえるくんの直球勝負 | ジャズと密教 傑作選

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空海とサイババとチャーリー・パーカーの出てくるお話です

かえるくんは一途だった。一途であるが故に厄介な存在だった。プロパガンダに見事に引っかかった者どもは始末に負えない。

そして、人間社会の大前提として太古よりすでに人々の血肉に浸透した人間中心主義は、その拡張するにあたって、もはやプロパガンダすら必要とせず、ブッシュやアベの舌っ足らずな能書きを鼻で笑う知性は退けられ、今や風前の灯火だ。

かえるくんがなんの疑いも持たず、その気になるのも無理はないのかも知れない。

「なにしに来たんだ、かえるくん」わたしは繰り返す。「君の出番はないよ」
だが、かえるくんの意志は固い。
「これは理に適った帰結なんだ。そこにあるべきでないなにものかが発生して大きく膨れ上がり、そして浸食を続けた。我々に感情はないが、我々の総意はそれを許さない。それがこれから起きようとしていることだ」

「ふん、交渉の余地はないと?」かえるくんはやっと口を開く。
「なあ、かえるくん。我々は決して傲慢なのではない。君たちが間違っているんだ」
「その決めつけをこそ傲慢というのではないだろうか」

かえるくんは結構ふつうの思考回路を持っている。そのことを確認したわたしは一気に攻め立てようと考える。
「正しいことを傲慢とはいわない」噛んで含めるような言い方を心がける、あえて。「人間社会を基礎づける権利意識は人類の心を覆う我執に拠って形成されている」

わたしはかえるくんの様子をうかがう。「だから、つまり」
「だから、つまり」かえるくんは先を促す。
「そう、それは間違っている」

かえるくんは身を固くして押し黙る。我々の地平は噛み合わないままのようだ。
「たくさんの人が悲しい想いをしてもかい」かえるくんは彼の地平から球を投げてくる(ツーシームとかではない真っ直ぐな球だ)。その愚直ぶりにわたしはうんざりするべきだろうか。あからさまに大きくため息をついて見せるべきか。

「いいかい、かえるくん。よく聞いて欲しい」かえるくんはいよいよわたしを睨みつける。
「我々には人々を攻撃しようなどという意思はない。これは仕方のないことなんだ」
「いったいぜんたい」かえるくんは激昂する。「どう仕方がないっていうんだ」

ひるむわけにはいかない。「そこにあるべきでないものは排除される」沈黙が続く。(それが神の意思だ)わたしはその言葉を飲み込む。