夢見心地の母親が名前を問われて「ながいふみこ」と答える。訊き返しても、もうすでに覚えていない。いったい誰なのだろう。
わたしの知る範囲で母親の知り合いや友達の中にそういう名前はない。なにか因縁のある人物なのだろうか。ひょっとすると息子のわたしが今後どこかで（山本富士子似の）ながいふみこさんと出会うなんてことを予見してでもいるのだろうか。
と、間を置かず、ぼそっと今度は「しろがねさんこうちょう」とつぶやく。どこだと訊くと千葉だと言う。白金三光町と書くらしい。どうやら本当にそんな地名がありそうな感じだ。でもやはり千葉にはそんな地名は見当たらず、白金三光町はどことまた訊いてみると東京と言う。
うーむ、東京の白金じゃ芸がない。てか言うことがあっちへ行ったりこっちへ来たりだと、もう信憑性のある情報は出てこないなとあきらめかけていると「とうきょう ．．．しば」と言っている。おお、なんだそうか。千葉ではなく芝だったのだ。
そう、芝区だったらあり得る。白金の辺りの帰属先が昔は（港区ではなく）芝区だったというわけだ。
そうだそうだそうに違いない。確かめてみると
その通りだった。東京市芝区白金三光町。昔は東京市だったのだ。区の割り振りも今のような２３区ではなく、呼び名も今とは違うところもあった。
そんなことは子供のころ母親からよく聞かされた。今どきはその辺りのことが言及されることも余りなかろう。今、大の字でいびきをかいているうちのばあさんはそんな時代を過ごしてきたのである。別に偉くはないけど。
それにしてもしかし、どうして母親の口からそんな地名が出てきたのかは未だ謎である。我が一家とは縁のなさそうなセレブの町白金。ずいぶん前のことだが、北里病院のある通りなんかを夜中によく走ったものだ（いえ、仕事で、仕方なく・・・）。
ふむ、実地検分がてら散策にまた出向いてみたいと思うが、横浜の山奥に縛り付けられた身では当面は無理。ああ、ながいふみこさんと運命の出会いを果たす日のやってくることは金輪際ないのだろうか。
てなわけで近隣のながい姓の皆さん、今世紀中に変な男がお住いの付近に出没することはありませんのでどうぞご安心を。