学生マンションの一室に、鈍い青の光が
滲んでいた。
少女は部屋の灯りを消したまま、ベッドに
縮こまっていた。
スマホの画面だけが、細い指先を照らす。
父の名前を検索する。
同じ単語が、何度も画面に並ぶ。
《不正受給疑惑》《愛人報道》《医大生の父、
急逝》
ニュースの文字が視界を歪ませる。
涙ではない。怒りでもない。
これは――罰だ。
机の引き出しを開ける。
白い小箱。
中には、“R”のネックレスが眠っていた。
拾った日のことを思い出す。
父のジャケットから落ちて、
戻るべき場所を失ったネックレス。
(返さなきゃいけなかったのに)
返せなかった。
返したくなかった。
――奪ったなら、奪い返すだけ。
その想いが胸の奥で熱く膨らむ。
その時。
スマホが震え、通知が浮かび上がる。
更新:#青い封筒 #罪を告げる声
#交差する視線
またあのアカウントだ。
フードの男の投稿。
少女の視線が、ゆっくりと背後へ向いた。
窓の外――
マンションの向かい側の闇。
その奥に、誰かがいた。
スマホの光が、微かに揺れた。
(まだ見てる――?)
胸の奥がざわめく。
だがその不安の奥に、別の感情が芽生えて
いた。
記者。
父の名誉を記事一本で壊し、
スクープのために平然と嘘を塗り重ねた男。
少女は知っている。
あの男の正義は、いつも“自分の利益”だけを
向いている。
ふと、カーテンの隙間から
視界の端を黒い影が横切った。
(あれは……同じ建物の廊下?)
フリーターだけじゃない。
記者だけでもない。
観察者は二人いる。
いや――もっと。
少女は手を伸ばし、ネックレスを強く握った。
その冷たさが、意志を固める。
(奪ったのは、あなただけじゃない。
傷ついたのは、私だけじゃない。)
真実は、まだ沈んだまま。
光に晒される準備さえしていない。
けれど――
封筒を投函した夜、
鍵はもう、回されてしまっている。
闇の中。
少女の瞳が、わずかに光った。
📩次回予告
交錯する監視者たち。
罪が罪を呼び、視線が視線を刺す夜。
👁 真の観察者は――
まだ名乗らない。
