どんな粒も『Fly By Night~君がいた』 | 拝啓、ステージの神様

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ステージには神様がいるらしい。
だったら客席からも呼びかけてみたいな。
観劇の入口に、感激の出口に、表からも裏からもご一緒に楽しんでみませんか。

点と点を結ぶと線になる。
聞きなれた言い回しだ。

9月1日にシアタートラムで開幕したミュージカルドラマ『Fly By Night~君がいた』を観た。
7人の登場人物が点だとしたら、そこから結ばれる線は単純で複雑だ。

 

いや、ここで仕切りなおしたい。彼らは点ではない。
粒かな。
粒と粒を結ぶと太さや感触の異なる糸になる。

糸? 紐? ロープでもないし。

でもここでは糸にしておこう。



7人の登場人物と書いたが、正確には6人+1人だ。
ではその一粒ずつをみていこう。

恋をする青年、ハロルド(内藤大希)という粒。
予期せぬ恋をする姿は、ときめきととまどい、ひらめきときらめきをいっぱいふりかけて、その粒を大きくしていく。
「あ、ときめきハロルドだ!」「大丈夫?とまどいハロルド」みたいな感じで彼の一挙手一投足&一弾ギターを見つめたい。



実力に葛藤する男、ジョーイ(遠山裕介)という粒。

自分に期待しているのに、自分に絶望もしている。だからどんどん上塗りしていくみたいに、その粒をコーティングしていく。
「あーあー、こんなに厚くしちゃって~」と心配にもなるけれど、それをはがしたり、壊したりするのも自分なんだよね…とジョーイに教えられること、多いはず。

 

かけがえのない人を失った悲しみに目を伏せるしかできない男、マックラム(福井晶一)という粒。
その存在の大きさのために、自分の粒をどんどん小さくしていく。
「そのままじゃ、自分自身が見えなくなっちゃうよ」「私はあなたの話に耳を貸すよ」そんな風に観客は自分の役割を作りたくなる。
でもだからこそ、マックラムに待ち受けていることには希望がある。

第二次世界大戦以降の自分は付け足しのような人生と思っているサンドイッチ店の主人、クラブル(内田紳一郎)という粒。
傷だらけなのか、実は無傷なのか、どこか尖っているのか、むしろまん丸の粒なのか。

不器用なハロルドが、なんだかんだとクラブルの店にいられるのは、その答えのような気がする。

 

ダフネ(青野紗穂)という粒は、ちっちゃーい粒の塊。臆病なのに、甘えたがりなのに、強がることで、溶けてしまわないように、くだけてしまわないように立っている。
「いいからさ、手をつないでいようよ」となぜか彼女の前で男前ぶりたくなってしまうんだなぁ。

ミリアム(万里紗)という粒は、ツルツルとしていたり、ゴツゴツとしていたり、触れるたびに感触が変わる。温度も変わるかも。
でも、どんな触感だったとしてもまた両手で包み込みたくなる魅力にあふれているんだよねぇ。

 

どの粒も形状はいろいろで、不確か。

その粒たちをつなぐ糸(のようなものが)くっついたり、こんがらがったり、切れそうになったり、クロスしたり、平行になったりしているんだってことを、
ナレーター(原田優一)が、見せてくれる。根気よく。

たいてい当事者はわかっていても渦中にいると、どうにもできないものだ。
そして、そのことに絶望したり、あきらめたり、高をくくったりもする。
物語と彼らに起こったことを根気よく紐解きながら見せてくれたナレーターという粒は、いったいどこから来たの?
存在していたっけ? 記憶に残るもの?



こう書くとどこまでもファンタジックな作品のように聞こえるだろうか。
それは、観た人が決めていい。
でもこれだけは言いたい。このミュージカルドラマは教えてくれる。

あなたの人生には、あなたがいて、あなた以外の人が必ずいるんだってことを。

(以上、写真提供:conSept/撮影:岩田えり)

 

 

<公演日程>

2020年9月1日(月)~9月13日(日)

シアタートラム

 

2020年9月19日(土)~9月22日(火・祝)

横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール

※全20公演streaming+にて配信あり