希望と納得~ミュージカル回想録 『HUNDRED DAYS』 | 拝啓、ステージの神様

拝啓、ステージの神様

ステージには神様がいるらしい。
だったら客席からも呼びかけてみたいな。
観劇の入口に、感激の出口に、表からも裏からもご一緒に楽しんでみませんか。

ミュージカル回想録『HUNDRED DAYS』が開幕した。

観終わった今の体の状態をいうなら、ライブの後と同じ感覚だ。

じゃあ観終わった今の心の状態をいうなら、希望と納得だろうか。

 

 

最初からトランス状態で参加できるライブもあれば、徐々に興奮を覚えるステージもあるだろう。

HUNDRED DAYS』が始まると、この世界はいったいどこ?と迷う人がいても不思議じゃない。

この作品に登場するアビゲイル木村花代とショーン(藤岡正明)は、すぐ隣にいる友人・知人のようかといえば、そうじゃない。(もちろん、すぐ隣にこういう人がいるという人もいるだろう)

でもそのことを「あぁ自分はなんか小市民なんだな」などと思う必要はない。つまり、うわっ、この世界にすぐに入り込めない自分ってダメなんじゃないか……と思う必要はないということ。

もっと舞台関連でわかりやすく言えば、周りがスタンディングオベーションしている光景を見て、「え、同じように出来ない私って、感性が足りないの?」とか思う必要ないじゃないっていうのと一緒。

なんかそういう横並びシンドロームに、私たちは知らず知らずのうちに侵されていると思う。

一方で、個性だ多様性だと、横並びを否定しすぎる世の中も生きづらいけれど。


で、なぜそんなことを書くかといえば、とても非凡で小市民だという自覚のある私は、この舞台を観て、いろいろな方法でこの世界に寄り添える方法を見つけた気がした。

それを紹介しちゃおうと思う。

 

・ライトの色に感情を委ねればいい

アビゲイルとショーンが歌うときの照明は、曲であり感情であり、背景だ。その色に自分なりに反応すると(委ねると)、この作品世界で泳げるのだ。

 

・バンドメンバーとのアイコンタクトを見つけてみるといい

ベンソンズはファミリーバンド。彼らとのアイコンタクトがやばい。そもそもそういうのが大好物すぎるからもあるけれど、ピアノ、ドラム、ベース、チェロ、ギターとボーカル、皆のアイコンタクトを見つけるだけで、安心とか信頼とか勇気が出るのだ。

 

・手拍子が起きたとき、クラップがある時に、間違ってもいいから自分もやってみるといい

もちろん誰も強制はしない。それがないからといって、ノリの悪い客め!なんて思わない(はず)。でもね、「あっ」と思ったら次からすぐにトライしてみる価値あり。そうすると、なんかわからないけど、パワーがみなぎるのだ。

あ、でも歌詞をよく聞きたいから、手拍子しないというのもちょっとわかるんだよねー。そういう方はパンフレットを買ってそこに掲載されている歌詞をじっくり堪能するといいよ。

 

と、ここまでが入り口。

ではでは、改めてステージ中央に立つ二人について書いてみよう。

 

初日のステージを観て、確信した。

アビゲイルを演じた木村花代さんは、心の中に確実に何かを飼っている人、それは時に野獣で、時に寂しくて死んでしまうウサギ(ウサギが本当に寂しいと死んでしまうのかどうかはこの際別として)

稽古場取材の時に、なぜ花代さんがキャスティングされたのかを改めて聞いた時、

ブチ切れられる女優でないとダメだからと回答をいただいたが、

それはステージでの彼女を観れば完全に納得できる。

この役がどんなにチャレンジングであるのかは、彼女が傍らに置いたボトルの水の減り具合でもわかる。すごい熱を体の中にため込んで、そして放出していた。

 

木村花代はアビゲイルとして生きている。だけど、演じている自分と、本当の自分とまだ見ぬ自分をミックスさせていた。それが役者の仕事ということかもしれないけれど、

きっとその配分は日によって、ステージによって変わるはず。

「びっくりするくらい、今日の私、アビゲイルだった」

「今日の木村花代さん、やばかったね」

「ってか、あの瞬間なんだったんだろう?」

そんな感想に、観客もご本人も襲われていくのではないだろうか。

彼女が歌う「♪三本足の犬」。これはもはや事件だ。

 

ではショーンを演じた藤岡正明さんはどうだろう。

彼の冷静さは情熱があるからこそ生き生きとしている。

このツボを押すとすごく痛いこととか、こっちの肌をなでるととても気持ちいいことを体験済で、それを惜しみなく出したり引っ込めたりすることで、どんどん自らのテンションをあげていくことが出来る人なのだ。

誤解を恐れず言えば、とてもイヤラシイ人だ。

彼がキャスティングされた理由もまた、ステージでの彼を観れば完全に納得できる。

 

 

ミュージカルを観る時、「ああ、この曲を聴くために、この作品はあったのだな」「この曲を聴くために私、ここに来たのだな」と思うことがある。

それは一幕ラストの曲だったり、オープニングだったり、大好きな人のソロナンバーだったり、いろいろだけれど、『HUNDRED DAYS』にもそれがある。きっとある。

私もあった。あなたにもある、絶対。

絶対なんてふだんは言わないけど。

 

(写真提供:conSept 撮影:岩田えり

 

<公演日程>

2020年2月20日(木)~2月24日(月・祝)

シアターモリエール

 

2020年3月4日(水)~3月8日(日)

中野ザ・ポケット