稲穂はちゃんとお返ししました。
アーティストの楽曲を全編に使って構成されるミュージカルはたくさんあって、フランキー・ヴァリとフォーシーズンズの『ジャージー・ボーイズ』、キャロル・キングの『ビューティフル』など、アーティストの半生を綴る作品が多い。
曲からインスパイアされてオリジナルストーリーが生み出される作品もあって全編ABBAの『マンマ・ミーア』はジュークボックスミュージカルと呼ばれる作品の代表のひとつだろう。
国内にも実はたくさんある。
全編広瀬香美ソングの『ガールズタイム』(1995)、
全編ウルフルズソングの『ボーイズ・タイム』(1999)、
全編槇原敬之ソングの『愛の唄を歌おう』(2014)、
全編ザ・ブルーハーツソングの音楽劇『リンダリンダ』(2012)などがそうだ。
そしてこの度上演されたのが、全編レキシの楽曲で構成された『愛のレキシアター ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』だ。
愉快だ。曲を知っていればなお愉快で、そのアーティスト自身のことをとてつもなく好きな人にとっては、もしかしたら愉快とは言いたくない人だっているかもしれないけれど、それも踏まえて作品にしちゃうこと、造りあげること、練り上げることは、やっぱり愉快だ。
歌ゴコロがある人が歌ってくれたら、この上なく愉快だ。
『愛のレキシアター ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』はこの上なく愉快な作品として赤坂ACTシアターで上演された。
舞台をナビするのは、レキシの生まれ代わり(というのもなんだけど)劇団シキブとウォルト・レキシー役の八嶋智人さん。
客席を巻き込んで、楽しんで、茶目っ気を一粒残らず見せる術を身につけている人だ。
織田こきん役は山本耕史さん。
上↑にあげた作品の中で、『ボーイズ・タイム』や『リンダリンダ』に出演している。彼の歌声を知らない人は、この作品を観たら、どうしてこの作品に彼がオファーされたかが納得できるはず。
だってね、上手いんですもん、いろーんな曲、歌いこなしちゃうし、歌いあげちゃうし、気持ち良さそうでキモチよくさせるんだもん。
カオリコ役の松岡茉優さんは、当て書きみたいに見える設定を嬉々として演じてた。器用そうに見えて、不器用なんじゃないかなとか、明るそうに見えてきっと屈折もしてるよね、とか、想像させる感じ。
それも演技だったら、だいぶ凄くてだいぶ恐ろしい(いい意味で)。
レキシの歌は、懐かしめも、ファンクも、ダンスナンバーもバラードもいろいろあって、何かっぽいと思わせる感じがレキシっぽい。
ズルいよなー、ズルくていいよなーとニヤニヤする。
ニヤニヤするといえば、明智役の藤井隆さんと織田胡蝶役の高田聖子さん。
全力で馬鹿が出来る大人って、絶対真面目でしょ。例えばなんかすごいアクシデントがあった時もこの二人がいたら、絶対大丈夫な気がするのが凄い。で、「今度凄いとか言ったら絶交だからね!」とか友達でもないのに言われるような気がするので、この辺で止めておこうという気になる。
くノ一さん役の井上小百合さんと、源ヨシツネ役の佐藤流司さんは、フレッシュだけど大胆で、こんな風に見せ場をちゃんと自分のところでひるまず生かすって、エンターテインメントだなぁと思う。
同世代同士で活動する機会が多い若者が、ベテランに混じったら、それだけで吸収力さらに倍!みたいになるんだろうなと、見ていて気持ちがウキウキした。
そして腰元さんや卑弥呼役の浦嶋りんこさん。
パワフルで無限、ボリュームを調整できるつまみを持っていたら、りんこさんのをガーッと上げて踊り出したい気分だった。
そしてそしてやっぱり忘れてならないのは、超苛酷な役回りの劇団シキブ劇団員、レキシーランドキャストの皆さん!!
アナログ万歳、八面六臂の活躍で、感動。
彼らの動線を記録したら、ものすごい距離と轍になるだろうな。
初日と楽前前に観ることができたのだが、動きはより滑らかになってて、客席の巻き込み感はパワーアップしていて、でも何が出るかな!的サプライズ感は失われていなくて、愉快だった。
「この後、レキシのライブあるけど、行かない?」って誘われたら、観客まるごと「行く行く~!!」って言っちゃって、行っちゃいそうな、そんな愉快な時間だった。
〈公演日程〉
2019年3月10日(日)~3月24日(日)
赤坂ACTシアター
2019年3月30日(土)~3月31日(日)
オリックス劇場