『サムシング・ロッテン』愛がなけりゃ自虐はない! | 拝啓、ステージの神様

拝啓、ステージの神様

ステージには神様がいるらしい。
だったら客席からも呼びかけてみたいな。
観劇の入口に、感激の出口に、表からも裏からもご一緒に楽しんでみませんか。

拝啓、ステージの神様。
ケロッと劇場をあとにしました。

インターネットラジオのブロードウェイチャンネルで、
「この曲なに?」とタイトルをつい確認しちゃう曲は、
たいてい『サムシング・ロッテン』のものだった。
それくらい有名ミュージカルのさまざまな曲の要素が入っているので、耳に引っ掛かるのだ。
気になるなぁと思っていたら、この作品が日本で上演されるとある時知った。
演出と上演台本はあの福田雄一さん。
 
しばらくすると出演するのは中川晃教さんだったり、西川貴教さんだったり、橋本さとしさんだったりすると知った。
祭りの予感だった。
 
物語の舞台はルネッサンス時代のイギリス。
ニック・ボトム(中川晃教)は売れない劇作家。
弟のナイジェル(平方元基)は兄を慕い、詩を愛する劇作家。
二人の意識の向こう側にいるのは、売れっ子劇作家のウィリアム・シェイクスピア(西川貴教)だ。
次の作品が成功しなければ劇団は消滅するかもしれないという危機に迫られるボトム兄弟。
一方のシェイクスピアも次作に行き詰っていた。

あぁ、創作する人たちはいつの世もこの生みの苦しみを味わっているのよね……などと、共感する必要はない。
彼らは予言者トーマス・ノストラダムス(橋本さとし)や妻のビー(瀬奈じゅん)も巻き込み、情けない手やちょっと卑怯な手や
あれやこれやを使いながら、次作に挑む。
ニックが手掛ける次作はなんとミュージカル。
「え、ミュージカル!?」
突然歌い出すのとか変じゃない?
なんでそこで急に踊り出すのさ!
ミュージカルに日ごろ寄せられるアレルギー的なものとか、
ミュージカルあるあるのようなものを逆手にとって、
でもミュージカルってね・・・・・・と客席を惹きつける。
ミュージカルが大好きな人はニヤニヤ、ワハハとするし、
アンチの人は(そもそもアンチの人は観に来てないか)、
懐疑的な人には、「へ~、そうなの!いいの?」と自虐で寄せ付ける。
自虐ネタを嫌う人もいるけれど、
それが出来るのはそれを大きく上回るほどの愛があるから。
この作品はミュージカル愛てんこ盛りの人たちが作って、歌って、
踊って、笑わせてくれる。
特に中川ニックと橋本ノストラダムスが歌う「♪ミュージカル」は
日本語上演だけれど、両サイドに歌詞出して欲しいくらいだった。
 
シェイクスピア作品の言葉遊びを連想させるように、
「ハムレット」は「オムレット」になり、悲劇が喜劇になるからくり。
ニックの妻、ビーが変装を繰り返すのも、
シェイクスピア作品を大いに意識しているからだろう。
シェイクスピア劇の中では、「なんで気づかないの!?」とツッコミを入れたくなるほど都合よく物語が進むことがあるけれど、
この作品の中では、妻の変装に夫のニックは必ず気づく。
それもまたシェイクスピアへの皮肉なのかも。
 
終演後は、「あの作品やあの有名ミュージカル曲もあったよね」
と何かと答え合わせがしたくなる人も多いはず。
ビッグバンドの演奏も楽しくて、
「あー、おもしろかった」とケロッとした気持ちで劇場をあとに出来る。

三谷幸喜さんが、見終わった途端に作品のことなんて忘れてしまうようなその場限りのコメディを作りたいとよく言っているけれど、
三谷作品(特に近年の作品)は持ち帰るものが結構ある。
・・・・・・となると、↑のような役割りを担う作品を今、作っているのは
福田雄一さんということになるのか。
 
まあ、そんな風に型にはめようとするのすらナンセンス!
なのだろう。
ミュージカルを世に広めようと試みている人は、
名作の名曲を歌い上げるのももちろんいいけれど、
『サムシング・ロッテン』の「♪ミュージカル」を歌うといいんじゃないかな。
ミュージカル愛てんこ盛りの人たちが、歌って、踊れば、
きっとその楽しさがミュージカル好きにも、未満の人にも伝わるはずだから。
 

東京国際フォーラム ホールCの2階からって結構見やすいんですよね。華やかなレビュー感、堪能できました。
 
<公演日程>
2018年12月17日(月)~12月30日(日)
東京国際フォーラム ホールC
 
2019年1月11日(金)~1月14日(月)
オリックス劇場