拝啓、ステージの神様。
聴覚も刺激する布に魅せられました。
シェイクスピア劇を観るときにあるのは、いつも「期待」。
どんな作品でも、もちろん期待して観るのだけれど、
シェイクスピア劇の時は、とくにそれを持参していく。
上演中の『トロイラスとクレシダ』も、いつものそれを持参した。
演出は鵜山仁さん、トロイラスを浦井健治さん、クレシダをソニンさんが演じる。
浦井さんの歌声はもちろん素敵なのだが、
彼のストレートプレイが気になっていて、『星ノ数ホド』に続いて、やはり観ておきたいという期待を持参した。
あのトロイ戦争がはじまって7年も経過しているところでの物語。
ギリシャのスパルタ王 メネレーアスの妃をトロイの王子パリスが奪ったことに端を発した戦争。
その引き金になった当の2人は、物語の中ではなんともハッピーで、
「愛し合っちゃったのだもん、しょうがないじゃなーい」という感じ。
末の弟、トロイラスはトロイの神官の娘、クレシダと恋に落ちて結ばれる。
互いの思いの強さをいきいきとぶつけあいながら、
「裏切ったりしないよね?」「当たり前じゃない」という感じ。
ギリシャ軍のアキリーズ(横田栄司さん)とパトロクラスの男同士のいちゃつきあいもまた、
これが戦争の最中なの?というハテナをよそに、客席を笑わせる。
でも、待てよ、7年も戦いが止まない状況が、こんな状況を引き起こしているのではないのか?
そう思わされたのは、トロイ軍とギリシャ軍をイメージする2色の大きな布。
時に、ねじれたように吊られ、
時にバサッと音を立てて落下し、時にそれぞれの陣のテントのような姿になり、
時にトロイラスとクレシダが愛を交わすベッドのシーツになる。
サラサラ、つややかな布ではなく、バサバサと音を立てるそれこそテントの生地のような布だ。
彼らのやりとりとおどけた台詞や言葉遊びに笑っていた背中に、時折その布の動きと音は
脅しをかけてくるようだ。
二人の恋が実ったと思ったのもつかの間、捕虜の交換としてギリシャ軍の元へ行くことになったクレシダは、ダイアミディーズ(岡本健一さん)に言い寄られ、心変わりをしてしまう。
それを知ってしまう、というか目の前で見てしまうトロイラスは、怒りと悲しみをあらわにし・・・・・・
と、ここまでくれば、その心変わりは誤解であったとか、
復讐の炎を燃やし、決闘の後、果てるか、とか、そんな終わりを予想したくもなるが、
『トロイラスとクレシダ』は、そうはならない。
正義漢の兄へクター(吉田栄作さん)が、ギリシャ軍の剣に散ってもなお、戦いはやまず、
そして舞台は終わるのだ。
持参した「期待」は、なにかに馴らされていくことのおそろしさを知れ、というメッセージに変換された気がしている。
このパンフレットもとても刺激されるデザイン。
<公演日程>
2015年7月15日(水)~8月2日(日)
世田谷パブリックシアター
2015年8月7日(金)~8月9日(日)
能登演劇堂
2015年8月15日(土)~8月16日(日)
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2015年8月20日(木)
大垣市民会館 大ホール
2015年8月23日(日)
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール