慢性疲労性症候群とは、
明らかな原因がみつからないにも関わらず、
健康に生活していた人が感染症などに罹患した事などにより、長期にわたって激しい疲労とともに微熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、脱力感、思考力の低下、抑うつ、睡眠障害などがみられ、日常生活や、社会生活に支障をきたし、長期にわたり外出する事も困難で、ほとんど自宅内で生活せざるを得ない患者さんも多く、新型コロナウイルスの発症後の後遺症としても聞くようになった疾患でもあります。
現在では主に、脳・神経系に異常が起きて症状が起こるという事が明らかになってきています。
慢性疲労性症候群の患者さんは、
全体的な脳機能活動が低下しているとともに、
前帯状回、眼窩前頭野、背外側前頭野などの 前頭野のほか、
側頭葉、後頭葉、基底核、脳幹部において
脳・神経細胞の活動性が優位に低下している事が言われています。
また、
原因不明の激しい疲労倦怠感とともに、
立ちくらみ、発汗異常、便秘、下痢、動悸、体の冷えなどの自律神経失調症状がしばしば認められます。
前帯状回は自律神経系の機能に深くかかわっています。
眼窩前頭野は情動系の情報処理に、
背外側前頭野は意欲や記憶の呼び出しの際に重要な働きをしており、
慢性疲労性症候群の患者さんでみられるイライラ、不安、意欲低下、短期記憶の低下などの症状には
この部位の脳機能異常が関連していると思われています。
特殊なPET検査での脳内の炎症マーカー検査では、
視床、中脳、扁桃体での炎症が強い場合は認知機能の障害が強く、
帯状回や視床の炎症が強い場合は、頭痛や筋肉痛との痛みの相関があり、
海馬での炎症は、抑うつの症状が強い
という結果が出ていました。
鍼灸治療の特徴として、
自律神経の改善と脳血流量の改善に対しては良いデータがありますので、
その部分の改善を一つ目標として、患者さんの施術にあたらせて頂きました。
今回の患者さんは、2年前に37.5℃ぐらいの微熱が続き、胸の痛みや息切れが出たそうです。
その後も、微熱が続いている状態ではありましたが、半年程がんばっていましたが、急に何も力が入らなくなってしまい、
病院での診断で慢性疲労性症候群と診断されました。
また、
お医者さんからは、体がだるくならない事が大事なので、動かないで安静と言われたそうです。
様々な治療をそれまでにしていらして、
漢方治療やタチオン注射、B-spot治療、上咽頭擦過療法を行っていました。
2年が経ち、少し外を歩けるまで回復したという事で来院でき、施術にあたらせて頂きました。
来院時のPS値は8でした。
患者さんの特徴としましては、
疲労度が大きく、動くのがかなり辛いという事でしたので、
最初、鍼やお灸の刺激量を弱めに行っていきました。
足三里や太衝、承筋、失眠、湧泉への台座灸
背中は張りの部分や大腸兪への台座灸
百会と下関には鍼を行いました。
セルフケアとして、湧泉、足三里、合谷へのお灸をお勧めしました。
施術は週に2度で一回の施術時間は30分で行いました。
最初は、台座灸の方も各部位1壮だけでしたが、
だんだんと刺激量にも体が慣れてきたので、回を追うごとに
台座灸の回数も各部位2~3壮に増やしていきました。
お家でのセルフ灸も毎日やっていた事が、刺激に対して慣れてきたのもあると思います。
また、施術後の疲れが最初の方はありましたが、施術後の疲れも出なくなり、
患者さんからは、
「薄皮が1枚剥がれた感じ」
「頭がスッキリ」
「日中あたまがぼ~っとしなくなった」
「食欲が3倍ぐらいになった」
「体を伸ばしたくなる感じ」
「外に出て歩けるようになった」と施術回数を追うごとに症状の改善がみられていきました。
施術開始から1ヵ月では、背中や足へのお灸を行う場所も増え、頭への鍼の数も増えました。
1ヵ月ほど、定期的に施術をさせて頂きました。
休養で静岡に来ていたので、施術ができる期間が限られていましたが、
症状の回復がみられ、家に帰られてもお灸を続けているそうです。
今回、鍼灸を受けられましたが、もちろん併用して薬も飲んでいらっしゃいました。
施術を受けて、薬の量も減っていきました。(少しの量で効くようになった)
私が慢性疲労性症候群の情報を得る時に参考にしたのがこの本になります。
この本には、様々な治療方法も載っていました。
また、その推奨グレードがA~Iまであり、中国で行われている研究データでは推奨グレードBを示しておりました。
※ただ、日本と中国との鍼灸方法の違いがある為、日本では推奨グレードCでありました。
薬や漢方薬、和温療法、ヨガ療法など効果が一定以上あるものに関しても多くの療法がCであったので、
中国のデータを元にしたものではありますが、鍼灸療法が推奨グレードBという事に驚きました。
しかし、
施術をしていく中で患者さんの状態が良くなっているのをみていますので、
治療の一つの選択肢として効果的であるとは感じました。
様々な人が鍼灸を受けて効果があった事を実感しているので、
現在も続いている歴史が鍼灸にはあると思います。
今後はそれをデータとして示していく事が、
鍼灸がより医療の一部として日本で貢献できるものとなっていくと思います。
(海外では医療の一部になっています)
また、患者さんが毎日毎日お灸をしてくれた事が症状が改善に向かった大きな要因だと思います。
来院するたびに体の変化を教えてくれ、
セルフケアを継続させる中で、ツボや刺激の量をアドバイスさせて頂きました。
一本の鍼で、
てき面に効果が出る場合もありますが、
じっくり継続させる事で徐々に効果が出てくるものでもあります。
まだまだ解明されていない
そんな所が鍼灸の奥深さだと思います。