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昨日のエントリに追記したように、安倍総理が代表質問の答弁で「再分配後の所得の格差はおおむね横ばい」と述べた根拠は経済財政諮問会議での議論だった。民間議員が所得格差、地域格差、世代間格差あるいは世代内格差について問題提起しており、安倍総理はその説明を踏まえて答弁したのだろう。
この件の議論はまだまだこれからという感じだが、資料や民間議員からの問題提起は参考になる。改めて当該資料と議事要旨をご紹介しておきたい。
経済の好循環の強化に向けて ~格差について~ (説明資料)
平成 27 年第2回経済財政諮問会議 議事要旨(格差に関しては7~9ページ)
私は記事をアップした後で上記の資料に気付いたのだが、一度の会議で提示される資料は膨大で、すべてをざっと見るだけでも大変なのだ。それに、この会議の資料の一つに注目したことも他の資料のチェックが遅れた理由だと言い訳をしておく。
その資料とは、内閣府による「中長期の経済財政に関する試算」というもので、これによると経済再生を想定しても「2020年度にP.B(基礎的財政収支)黒字化」は達成できない結果となっている。つまり、更なる税収増と歳出見直しが必要というわけだ。
まず、その試算結果を示すグラフをご覧いただきたい。
出典:「中長期の経済財政に関する試算」(経済財政諮問会議資料)
P.Bの黒字化を財政健全化の指標にすることには疑問を感じるが、安倍政権として公約に明記しているのだからどうでもいいという訳にはいかないのだろう。余程のことがないかぎり国民との約束は守らなければならない。それはともかく、今日の主題はそこではなくこの試算の妥当性だ。
この内閣府の試算は以前のエントリでも取り上げたことがあるが、以前から「増税ありき」の財務省の影がちらつくのである。その後、菅官房長官らが内閣府にメスを入れたはずだが、今回の試算を見る限りまだまだ財務省の影響力は残っているようだ。
以下は2013年8月の拙エントリと関連するグラフである。
やっぱりあやしい!内閣府のシミュレーション
特に2013年から2014年あたりを上のグラフと見比べると分かるように、当時の試算より実績(見込み)のほうがP.Bはかなり改善されている。つまり、内閣府の試算は経済成長による税収増をかなり控えめに読んでいるということで、この試算の前提や算出方法には増税派の意向が強く反映されていると思われる。
もっと具体的にいうと、経済成長率に対する税収増化率の大きさを示す「税収弾性値」を過去の実績より極めて低く設定している。いくら経済成長しても増税は必須とするシナリオなのだ。
そこで、内閣府の資料を元に税収弾性値を算出し、関連するデータと共に一覧表にまとめ直してみた。
2015年以降の税収弾性値は、財務省がこだわり続けてきた「1.1」より高くなっている部分もあるが、どの年度も2012~2014年度と比べてかなり低く設定されている。こうして数字を並べてみると、2015年度以降の税収弾性値の設定がいかにおかしなものかが分かる。
そこで、以前のエントリと同様に試算部分の税収弾性値を仮に2.5としてP.Bがどうなるか試算してみた。実際には税収の変動で国債発行額が変化するなど多少の変動要因はあるはずだが、そこは無視してざっくりとしたところを確認している。
税収弾性値は3でもいいと思うが、2.5と低めに見ても2020年度にはP.Bが黒字化するとの結果になった。アベノミクスを現在の計画通り進めていけばいいということであり、無理に歳出を絞ったり、ましてや増税などする必要はない。経済成長により税収を増やすことに注力すればいいのである。
もちろん、政府支出をいくらでも増やしてもいいということではなく、歳出の無駄を省くことも大切だ。予算を積み上げるのではなく、一方を削って他方に回すこともあるだろう。しかし、財政再建を重視するあまり歳出を絞りすぎ、その結果、経済成長が止まったら元も子もないのである。
ところで、経済財政諮問会議では、財政再建の指標としてP.Bの黒字化の他に国・地方の債務残高の対GDP比をクローズアップし始めている。その意図は歳入と歳出のバランスだけを動かすのではなく、もっと経済成長による財政健全化を図るべきだとするもののようで、その考え方は支持できる。
そういう考え方が「オオカミ少年」こと伊藤元重氏も含む民間議員から出てきたことに驚くが、昨年の消費増税により景気が腰折れしそうなほどダメージを受けた反省があるからではないか。経済運営の司令塔が間違った増税判断を安倍総理に提言したのだから、その責任は大きい。
増税の影響を軽く見過ぎていた民間議員は、現実をみてやっと経済成長こそが最優先すべき課題だと気付いたようだ。とはいえ、この提言には、更なる消費増税を目指す財務省が強く反発しそうだ。
この問題に関する今後の議論や駆け引きにも注目していきたい。
(以上)
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