脳性まひブラザーズ・オペラ | New 天の邪鬼日記

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2月13日(水)脳性まひブラザーズ・オペラ
0802周佐とダイゴ手前が周佐、後ろがDAIGO。

お寺でオペラを上演するというのは最高のシチュエーションである。
しかも居候させてもらっている護念寺だからなおさらである。まずは住職である好円さんのあいさつからはじまった。400年もの伝統があるお寺をまかされた尊い住職の存在感に観客は緊張する。
「きのうアキラくんや大介とチゲ鍋を食べていたら、うちの犬がでっかいウンコを床にしちゃったんですね」
おーい、いきなり下ネタかい!
「それをティッシュでぐるぐる巻きにしてトイレに流したら、つまっちゃったんです。そこでこの棒にゴムのカップがついているやつで(プランジャーという)、グアッとひっぱったらジョワーッと流れました。このようにさまざまな人々がこの寺に集い、また去っていくのです。そうやってみなさんに寺をつかっていただけるというのはすばらしいことです。べつにみなさんをウンコと言ってるわけではありませんよ」
観客は爆笑し、空気がいっきになごむ。
本堂では御本尊のブッダが黄金に輝き、神様から見捨てられた、いや選ばれた脳性まひブラザーズに後光がさしたように見える。
0802護念寺ダイゴ

オープニングは脳性まひブラザースの最新作「桃太郎」だ。
今までは「障がいネタ」で売ってきた彼らが、はじめて「障がいネタ」を禁じた記念すべき作品である。プロの演出家が「きみたちはもう障がい者ではなく、プロのタレントだ」ときびしく指導し、DAIGOも周佐も血のにじむようなレッスンに耐えながらつくりあげた傑作コントである。
観客は鬼気迫るプロの芸に驚き、爆笑した。
オレはオペラで、彼らがプロのタレントに達するまでの影の部分、つまりアーティストとしての彼らを知ってほしかった。障がいという社会的に圧倒的なマイナス要素をお笑いという究極のプラスに転化させた命の力そのものを伝えたかったんだ。
周佐のオペラは1年前に新潟市「田中食堂」で上演し、大きな感動を呼んだ。
周佐が脳性まひで生まれたことを嘆いた母親は周佐と一緒に自殺しようとした。
5歳のとき、サラ金の借金が原因で父親が母親を刺そうとしたことがあった。
周佐は「新しいお母さんなんかいらないから殺さないで」と必死で懇願したという。
ストーリーを語る周佐も、自分をコントロールできない状態になり、泣き叫ぶように声をしぼりだす。観客はほぼ全員がぼろぼろと涙を流し、壮絶な周佐の人生に言葉を失ってゆく。
小中高と養護学校にかよっていた周佐は、週に一度の帰宅日にも家に帰ることがいやで、友人の家に帰っていた。
だんだん自分の家族が自分の家族じゃないような気がし、ずっと自分の居場所を求めつづけてきたのだ。
酒を飲むと暴力をふるう父親、
サラ金地獄の母親、
愛する弟の事故死、
苦難の連続だった周佐の人生が、
物語となり昇華されてゆく。
やさしすぎる性格の周佐は、家族全員からの依存をひとりの身で支え続けた。
27才のとき、両親に離婚をしてほしいと周佐は伝えた。「離婚するなら、のりお(周佐のこと)を施設に預けないとな」父親に言われた周佐は、自立することを決意する。。(以上2007年3月18日のブログより抜粋)


1、背中
2、いたいのいたいのとんでけ
3、たったひとつの命
4、ぼくの居場所
5、家族

周佐は絞り出すような声で自分のストーリーを語った。観客は何度も涙をぬぐっている。
後半はDAIGOの物語だ。
DAIGOは発語障がいを忘れさせるように、ユーモアに満ちたアドリブで笑いをとりながら語っていく。
DAIGOは健康な胎児として育ったが、出産のとき医師に頭を引っぱられた傷がもとで脳性マヒになる。しかし両親は「健常者よりも幸せな子供に育ててやろう」と決心し、DAIGOは家族の愛に恵まれて育った。
しかし自我が芽生えるとともに、さまざまな「社会的なハンデ」に直面していく。イジメ、クラスでの孤立、失恋など、DAIGOのゆくてをはばむのは体の不自由さよりも障がい者を受け入れない「社会の不自由さ」だった。
聡明なDAIGOはコンピューター会社に就職し、13万円の月給で自立するが、バブル崩壊とともに弱者は切捨てられる。
DAIGOは地元の映画講座にかよい、卒業制作で撮ったドキュメンタリー映画「崇とその仲間たち」が話題を呼び、横浜や山形のドキュメンタリー映画フェスティバルの招待作品に選ばれる。
「体や言葉は不自由でも、表現という世界では自由になれる」
DAIGOが創作という武器を手に入れた瞬間、「社会的なハンデ」が「アーティストのパスポート」に変わる。

1、Hello my mom!
2、イジメ
3、限界
4、祝福の歌
5、Brave heart
6、パズル

ダイゴと周佐は、こわれ者の祭典を知り、笑いコンビ脳性まひブラザーズとしてデビューする。「新潟の吉本興行」といわれる事務所に所属し、数々のテレビ出演、舞台、県外遠征など、押しも押されぬプロの芸人として活躍している。
お笑いもすばらしいが、オレは彼等をアーティストだと思う。
笑いという光を際立たせているのが、影だ。今回のオペラでは、彼等が歩んできた人生を包み隠さず描ききった。
これでもかこれでもかと襲いかかる試練に、ボロボロに傷つきながらも、わずかな希望を求めて立ち上がる。社会的にはマイナスと呼ばれるものを堂々と力に変えていく彼等の勇気に、観客は涙を流し、生きる力をもらった。
周佐の美しい声、ダイゴのユーモア、オレの歌が、ひとつに解け合い最高のステージだったとアンケートでも絶賛された。
そしてこの感動をもっと多くの人とシェアしたいと、早くも東京公演の話が持ち上がりました。楽しみにしててください。
最後に打ち上げの美味しい料理をつくってくれたアーティストの大介、下ネタ話で会場を一体にしてくれた住職好円さん、すべてをサポートしてくれた護念寺の玲子さんに、心から感謝を捧げます。
0802護念寺記念撮影
おちゃめな住職を囲んで記念撮影。

このオペラを見て感動してくれた中根さん(オレンジのネクタイ)から、早くも再演のオッファーがきた。なんと新潟県三条市にある東本願寺で6月1日(日)に再演できるかもっ!