ちぢまらない距離 | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

 なかなか楽しい宴であった。
 「 大介の顔はおかしい」というネタで一晩中盛りあがる。
「目と眉毛のあいだが4センチもはなれてる人間はもはや人類とは呼べない」とか、アイプッチ(インスタント二重まぶたつくるジェル)で大介のまぶたに何本線が引けるか競争しよう」とか、「もはや現代におまえの居場所はない。タイムマシーンで平安朝へ帰れ!」とかさんざんイジられる。
 大介が彼女に告白したときの話も笑える。彼女は当時4人ものイケメン男性に言い寄られていた。大介は自分が変な顔であることを意識はしていたが、もう知り合って5年にもなる。
 きっと彼女もおれの告白を首をキリン……いやロクロ首にして待っているはずだ。生まれてはじめて愛を告白する大介は清水の舞台から投身自殺する覚悟で彼女を公園に呼びだし、コクった。
「す……好きです」
 恥じらったり、真剣に悩む彼女のリアクションを期待していた大介は完全に裏切られた。
「はあ?」
 その単純なひと言にこめられた驚きは、残酷な身分制度を大介に突きつけた。
 やはり士農工商は、カースト制度は越えられないのですかあ! いいや、自分はアンタッチャブルどころか、もう人間という種にさえはいってないのかもしれない。
 プルプルと震える拳を握りしめ、二の句をなくした大介は、クルッと彼女からきびすを返し、とっとと逃げ去った。
 この日から彼女の中で煩悶がはじまる。
 たとえ目と眉毛のあいだが4センチはなれていても、あっそうだ、あの人は呼吸もするわ、飯も人の3倍食うし、もしかして、もしかして……人間かもしれない。
 たとえ目と眉毛のあいだが4センチはなれていても、あっそうだ、あの人は胸がふくらんでない、男性トイレにもはいるわ、もしかして、もしかして……男性かもしれない。
 彼女の中に「大介=人間=男」という天地も揺るがす認識が誕生した一瞬であった。
 たとえ目と眉毛のあいだが4センチはなれていても、あっそうだ、ゲレンデよ、あのまぶたを子びとさんのスキー場にするのよ。眼球の起伏が理想的なスロープを描いてくれるわ。小さな洗濯ばさみを3本立てて、釣り糸でロープを渡して、マヨネーズのふたでリフトをつくるのよ。マブチ・モーターはかわいらしく大介の頭蓋骨にビス止めしましょ。子びとさんは働き者だから終日リフト券を3,840円で買ってくれるわ。そうすればこんなイタリアレストランのウエイトレスなんてやめられる。
 1ヵ月後、今度は彼女のほうから大介を思い出の公園に呼び出した。
「この1ヵ月、ずっとあなたのことを考えていたわ。たとえ目と眉毛のあいだが4センチはなれていても……好きです」
 感涙にむせぶ大介を彼女は豊かな胸に抱きとめた。だだっ子のように可愛い大介の髪をまさぐりながら彼女はつぶやく。
「やっぱドリルつかわないと無理かなあ」