記憶はつぎはぎ | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

 日帰りで東京へいってきた。
 3日前スティングのコンサートでいってきたばかりなのに。4日後にはラーメンズの本公演でまたいかねばならない。
 今日は「COTTON100%」の現代書林と「神の肉」のめるくまーると共同戦略会議だ。
「従来出版社がやってきた営業じゃなく、もっとストリート系の戦略が必要だと思うんです」
 オレは音楽の相棒タケちゃんがデザインしてくれたパンフレットをみんなに見せた。
「このパンフレットを印刷して、本屋だけじゃなく、クラブやライブハウスや雑貨屋や若者の集まるところへ配ったらどうでしょう」
 パンフレットの具体的な見本を見せられて、みんな賛成してくれた。
「このようなプロジェクトにはなにか大げさな名前が必要です」
「アキラさんが 野ざらし画廊などでやったストリート奪還計画とかですか?」
「いや、オレはこの壮大なプロジェクト名を考えてきました」
 みんなはコーヒーをもつ手を止め、いっせいにオレに注目する。
「名づけて……」
 オレはひと呼吸おいてひりつくのどを水でうるおした。
「今回の主役はパンフレットとして印刷されたチラシなのです」
 百戦錬磨の営業マンたちが期待に胸をふくらませてオレの言葉を待っている。
「名づけて……」
「名づけて?」
「パンチラ大作戦です!」
 (コーヒーを鼻から噴き出したり、サラダを頭からかぶるなどのリアクションは、想像にまかせる)
 中年男たちに「セーラー服とミニスカートで営業しましょう」という案は却下され、オレはつぎのアポがとってある九段下へむかった。

 いっしょにメキシコにいったカメラマン塩崎庄左衛門さんにインタビューするためだ。3日前は九段下で高知のタウン誌からインタビューを受けていたのに、今度はインタビューする側である。
 6月に角川文庫からでる田口ランディさんとの共著「オラ! メヒコ」をあと1ヵ月で書き終えねばならない。しかし一昨年の11月にいったメキシコ旅行の記憶がほとんどないのだ。
 小型カセットレコーダーを用意し、庄左衛門さんの記憶を根ほり葉ほり聞きだした。オレのアルツハイマーは自他共に認める重症なので、ここだけの話だが、驚きの連続である。
「あんときのアキラさんの言葉は胸にしみたねえ」
「ああ、そうそう。具体的にどんな言葉を使ったっけ?」
「えっ、おぼえてないの?」
「いや、言葉の内容ははっきりと脳に刻まれてるんだけど、ノンフィクションて正確さが要求されるからさ」
「ああそうか。今から思いだしても感動的だったねえ。アキラさんはメキシコ人を相手にきっぱりと言い切ったよ。対等でありたいってね」
「われながらいい言葉だねえ。で、どんなメキシコ人に言ったんだっけ」
「えっ、なにとぼけてんの。カルロスじゃん」
「ああ、カルロスねえ。すごく人なつこい子だったなあ」
「子どもじゃないよ、タクシーの運ちゃんだよ」
「あは、カルロスの子どもとかんちがいしちゃった。もうキリスト教ってみんな同じ名前をつけちゃうから」
 内心冷や汗もんである。やっと他人の記憶を借りて自分の記憶をつぎはぎした。この分じゃいっしょにいったランディさんとタッキーのインタビューも必要だな。
 いいわけさせてもらうと、彼ら3人はオレとメキシコを2週間まわったあと帰国した。オレはみんなと別れてすぐ中米7カ国をまわったので、旅の記憶がごちゃ混ぜになっているのだ。
 「過去は現在と未来からくる干渉波によってつねに更新される」と量子物理学はカッコよく言っているが、オレの言葉でもっとカッコ悪く言うと、

 「過去は捏造される」