映画『シャッター』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

殺人タイムカメラ

 

 

シャッター 写ると最期

 

若者たちが次々に殺される典型的なスラッシャーホラーのテーゼ通りなロシア映画だが、その殺人に絡むギミックが未来を写すカメラって所が"藤子F"っぽくて新鮮です。いやむしろ"つのだ☆じろう"の「恐怖新聞」って方がしっくり来るかも。ただオカルトな内容ではあっても一応はソビエト連邦時代に開発された予知技術って設定のようです。このカメラは未来に起こる事を写し出すが人間を撮ってしまうと数分後に被写体は死亡し、その遺体が写真に写るという代物。車で事故って森に迷い込んだ若者たちが古い屋敷でこのカメラを拾った事から次から次へとカメラによって仲間が殺される血の惨劇へと発展。偶然と思われた惨劇だったが、そこにはカメラ開発の関係者の思惑も絡んでいたという軽いミステリー要素もあります。

 

ただギミックは面白くとも基本的には典型的なホラーなので若者が次から次へと惨殺されるのをキャーキャー云いながら楽しむのが正しい鑑賞方法なのでしょう。ちなみに今作の冒頭から連想したのはクリストファーノーランの『プレステージ』でした。なぜなら見世物の手品と思いきやトリックが実はSF的な設定だった感があるから。それでいて冷戦時代の空気感が漂っているので期待させられたが次のシーンでは長い時が流れた後でスマホ片手にバカな現代人がダイナーで旅行の相談をしてる姿を見てゲンナリ。どこの国でも商業映画特有のお茶の間化って奴は害悪でしかない。

 

つまり中田秀夫の『リング』シリーズは背景を掘れば村社会のしがらみや近親嫌悪みたいなドロドロした感情があって貞子が襲って来るよりよっぽど怖い物語が撮れそうなものだが、あえてそれをしないのが平成以降の世代。中田氏の師匠の小沼氏の世代にはそんな怖い映画は結構ある。つまり本当に怖い真理に気付かされるような本質的な価値のある作品を見るには大衆は心が弱過ぎるから炎上する前に自粛してしまうのが近年の商業作品の振る舞いなのです。それこそ冒頭と最後に出て来る軍人はなぜ成功に執着していたか社会背景を知ると本当に怖くなります。グルジアの巨匠アブラゼの傑作『懺悔』に描かれたような全体主義が暴走した果ての狂気沙汰が彼らの出世レースの後側にはあったのです。その辺の事情の方がよっぽど怖い訳だが、その手の本質をスルーするのが大衆向け娯楽のお約束。西だろうが東だろうが大衆向けばかりを見ていると真理に向き合う感性が育たず心と頭が弱くなります。