映画『レヴェナント』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

しぶとい熊殺し

 

 

レヴェナント: 蘇えりし者

 

米国は白人が"開拓"と称する侵略虐殺によって築かれた。それこそ欧州社会から追い出されるような不道徳なクズ移民によって築かれた自他共に認める成らず者国家なのだ。その過程を背景にした作品はジョンフォードの時代から腐るほどある訳だが私の世代ではジムジャームッシュの『デッドマン』やテレンスマリックの『ニューワールド』やマイケルマンの『ラストオブモヒカン』等が記憶に残る所です。この手の作品は個人的にはクズ白人の詭弁に感じるような所が多くて好きになれない。ただ本作は同じ米大陸でもヒスパニックの現代メキシコ映画界を代表する鬼才イニャリトゥの作品って事で拝見。先住民の抵抗から入植者を守るガイドの仕事をしてた男が敵地のど真ん中でグリズリーに襲われ動けなくなり仲間に見捨てられた事に始まる息詰まる復讐劇。彼には先住民女性との間に生まれた息子がいる訳だが動けない彼を守ろうとして仲間に殺されてしまう。これを殺した悪役の名前がフィツジェラルドなので思わず同じ開拓と狂気を扱ったヘルツォークの一連のアフリカ開拓作品群を思い出してしまった。それらの欧州の傑作にも似た泥臭さが本作にもあったからだろう。それこそ敵味方以前に野生の暴力に抗う力って所だろうか。

 

この主人公は瀕死の重傷を負いながらもナイフで巨大な熊を殺すという火事場の馬鹿力的なものを徹底的に出して生き残る訳だが、そのサバイバル術の中には動物の腹を裂いて臓物の中に入るという手法まであって思わず幼少時代に見た『帝国の逆襲』で遭難からルークを助けるハンソロを思い出し懐かしい気持ちになりました。その頃はハリウッド第一線にもこの手の野性味が生きていました。だが近年ではコンテンツが売れる為の商業的な記号と化してハリウッド映画文化は死に絶えた。それに比べると野性味に溢れるメキシコ映画界の作品は血沸き肉踊ります。この手の生命力を表現できる作家は他にキュアロン兄弟位しかいない。どちらもヒスパニックです。ヒスパニックの生命力によって米国文化は辛うじて生き残ってる状態です。グリズリーに襲われる長回しの死闘をはじめとして極限状況の描写力が物凄い。この主人公のしぶとさは正にヒスパニックの生命力にも思えます。この主人公は入植者と原住民の間で微妙な立ち位置にいて、ふと今は亡きトニースコットの『ドミノ』の混血アイデンティティを巡るディベート論旨を思い出しました。