映画『PENDATANG』の感想 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

息苦しい分断社会

 

 

PENDATANG

 

英国のブレクジットや米国の国境の壁など欧米でも反グローバリズムの風潮がある訳だがブロック経済化によって塞き止められる事は実はあまり多くない。ネオリベ的なエスタブリッシュや権力の腐敗が残ったまま国境だけが閉じられる。この物語はもし多民族国家であるマレーシアがアパルトヘイト(人種隔離政策)を行ったら?という未来を描いたデストピア系マレーシア映画。本作は中華系の視点で描かれてはいるが中国資本って訳じゃなくクラウドファンディングで作ったらしい。このテーマ性は昨今、世界的な危機感を産んでいるだけに協力したがる人も多かったのだろう。ネオリベの巨大資本の暴力に抗うには無分別なグローバリズムに歯止めをかける必要があるが分断によってより社会は疲弊する。この作品の冒頭部分で裕福な州は国から離脱したと噂話をしている。つまり分断の先には更なる劣化と貧困化が待っている。それだけにトランプのように安易に移民廃絶を叫ぶ事は単なる大衆の劣情に媚びたポピュラリズムであり公共を守る為に規制すべきは資本主義そのものなのです。ナチスのように国家が巨大資本から労働者を守るという方法が最も合理的だが行き過ぎると待っているのは全体主義的な息苦しさと無益な殺し合いです。

 

この物語の家族は分断を掲げた政党に賛成票を投じたが待っていたのは配給制の息苦しい社会。割り当てられた住宅に住み異人種に遭遇したら治安維持軍に即報告するよう釘を刺される。だが家の屋根裏にはマレー人少女が隠れていて親のいぬ隙に子供たちは彼女と仲良くなってしまう。その上、地域のボスも軍の隊長も腐敗していて生活必要物資もろくに届かない。やがて追い詰められた一家は国外脱出を画策し始める。ふと連想したのは『サロージャ』という傑作スリランカ映画でした。あれもシンハラ人によるタミル人への虐殺が酷かった時期にシンハラ人の家にタミル人少女が迷い込み匿われるって話でした。このパターンで最も多く撮られてるのはユダヤ人を匿うフランス人みたいな西欧の嘘八百映画な訳だが。(ドイツ人以上にフランス人は喜んでユダヤ人狩りを行っていたと戦後70年近く経って被害者の大多数が亡くなってからシラク政権は賠償を始めました)やはり移民廃絶が正しくとも出会った相手に対する惻隠の情に比べれば、そんな社会規範なんて無価値。少なくとも同じ社会を生きる同じアジア人を見下す奴はクズです。