やっぱり上手い
ジェーン・カンピオン短編集
まずは『ピール』のギスギスした雰囲気に引き込まれた。
実際の家族を使った実際にあった事というが、そんなに
大げさな事件が起こるわけではない。ドライブの帰り道
みかんの皮を窓から投げ捨てる息子を父親が注意する。
家族ならではの些細な言い争いが彼らの予定を遅らせる。
行き交う猛スピードの車の音が焦燥感を盛り立てている。
感覚的な上手さはカンピオンならではの鋭さがある。
ドメスティックな空間に散りばめた悪意も彼女ならでは。
次に『キツツキはいない』は、日常のふとした瞬間を
並べたナラタージュ。オムニバスと呼ぶには一つ一つの
エピソードがあまりに短い。それはメッセージに繋がる
要素でしかない。語られるあまりにくだらない発見の
連続に思わず笑ってしまう。まるでウケ狙いの広告だ。
そして『彼女の時間割』は最も彼女のフェミニズムを
感じさせる内容。女学生の性意識を抉り出している。
最初はアイドルの写真でキスの練習をする女の子達だが
実際に彼女達を取り巻く性環境の生々しさからは目を
背けようとする。憧憬の中にだけ理想のセックスを
描いているのだろう。これはなかなか見応えがあった。