映画『シロバコ』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

しょっぱいとは

劇場版「SHIROBAKO」

 

このアニメ映画は人材力がありつつも経済的に恵まれない弱小アニメ制作プロダクションが元受けとして劇場用オリジナルコンテンツで起死回生を図るという舞台裏モノ。ミュージカルタッチでナンセンスなディフォルメ表現も多いが、その内容自体はアニメ制作工程が素人にも分かり易く割と正確に描き込まれています。この手の舞台裏モノは作る側からすれば等身大で実感を込めただけで説得力があるものを作れるので共感を得易いが、この手の分かり易く制作業界内を晒す作品が増える事でクリエイターのふりをしてマウントを取りたいキモいオッサンとかが素人を騙す知恵を付けてしまうのでしょう。

 

ただ今作に描かれる状況から技術的進歩に伴い業界内は近年、急速に変わりつつあります。この作品ではあえて3DさんのCGを80年代のゲームっぽくディフォルメしているが実際は精度が上がり過ぎて制作の全ての工程を侵食しつつあります。3DCGを身に着けシェーダーに精通して絵的な引き出しも多い我々のような映像屋が最新のゲームエンジンで組むとフォトリアルは実写と見紛うレベルだしセルライクもセルアニメと見紛うレベルにまで極めてローコストに作れてしまう。つまり究極的には3DCGをマスターしたディレクターが一人いれば、いかなる映像も作れてしまう所までCG技術は進んでしまったのです。この映画では戦艦やら巨大蛸やら立体的に動かしたい所だけを3Dさんに振っていたが、それこそ人物も全てCGで作れば圧倒的にローコストな上に品質自体がセルに追い付いてしまったもんだから取って代わられつつあり、どこまでがCGなのかすらプロにすら判断できないレベルになりつつあります。だから今では、あらゆるパートの人間が3DCGに片足を突っ込み、その技術に追い付けないスタッフはアナログの神業でも持っていない限りクリエイター業界から消えてアダルトかYOUTUBER等の量産コンテンツにしか関われなくなります。さすがに私のように報道編集の現場からCMやMVやPV等を横断してドキュメント表現と真逆にあるアニメゲーム分野のCGをマスターしたような人種は多くないが元カメラマンや元ディレクター等、映像業界のあらゆる人間がアニメゲーム業界の3DCGデザインに流れて来ている実感はあります。その事によって低クオリティしか作れなかった古い世代のアニメ屋やゲーム屋から仕事を奪っている感覚(昨年は技量不足を理由に切り捨てた外注3社以上が廃業しました)はあるが品質を上げて消費者に喜んでもらう為に下手糞には去って頂くのが本来の資本社会って奴です。

 

ふと3DCGの仕事を本格的に受け始めた頃の事を思い出しました。それまで畑違いでオープンソースのツールでCGを作っていた我々に与えられたミッションは炎上案件のリカバリー。(ただ高級ツールを使った経験がないというだけでお荷物案件に回された)それまで数年に渡ってバブル世代の下手糞な正社員が作り続けたが品質的にクライアントOKが全く出ずにお蔵になりかけていた代物を約半年足らずでモデルもモーションもコンポジットも修正してクライアントを納得させ完パケた結果、数億程度の収益には繋がった。その結果、大量資本を投入して不良債権を作った挙句に我々に丸投げしたバブル世代の正社員に与えられたのは昇進と昇給。不良債権から優良商品を生んだ我々フリーランスに与えられたのはミッション終了に伴う雇止めだった。しょっぱいとは、このような理不尽な処遇の事を云います。この作品内での雇用は恵まれてる方です。この作品のヒロインはプロデューサーでオリジナルコンテンツで自社を盛り上げようとしてる訳だが近年では中小のプロダクションって奴は簡単に潰れたり立ち上がったりするのでクリエイターって人種はほとんどが所属企業はあっても出向ばかりの渡り鳥。良い仕事をすればポートフォリオが充実し第一線の企業から引っ張り凧になれるので仕事には執着しても企業には執着しません。そうやって私も大手の依頼を受けていた事もあったが、この作品に描かれるようなプロダクション搾取のメイカーは確かに少なくありません。そんで実際にも出る所(裁判)に出る前に体面を守って示談ってケースも少なくありません。この手のゾンビ企業化した日本の大手メイカーは最近では外資に軸足を移した実力派プロダクションに見捨てられ破綻しつつある訳だが。それだけに基本的に特定の企業に執着しない上に内幕モノは好きじゃない私でも思わず引き込まれて共感してしまいました。