映画『かくしごと』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

無職と無色

 

劇場編集版 かくしごと

ーひめごとはなんですかー

 

藤子不二雄A先生は"まんが道"、相原コージ先生は"猿マン"、大場つぐみ先生は"バクマン"と様々な有名漫画家たちがマンガ業界内部を明かす私小説的マンガを描いている訳だが、その久米田版がこれ。タイトルも副題もダブルミーニングになってるって所からしてネタに貪欲な久米田らしい。かつてサンデー黄金期に"南国アイス"という下ネタマンガで一世を風靡したギャグマンガ家の本音を吐露するかのような内容です。ちょっと恥ずかしくて有名になっても世間に堂々と名乗れない。それは芸風を守る為の計算でもある。この久米田というマンガ家は作品を読めば分かる通りネタの伏線が実に計算高い。そんな作家の想いを溺愛する一人娘というフィクションを通して描き出しています。ちゃんと娘を育てる為に売れたいけど知られたくないというジレンマ。この娘の小学校時代と主人公が筆を折った後の高校生時代の時間軸を行き来する構成。私は今シリーズに関してマンガもTVアニメも未見だった訳だが単純にこの映画だけ見ても構成の妙は活きていました。

 

かつて有名な日本画家だったが目の病気で色盲になりかけていた母のエピソード。それが何気ない娘との会話「お父さんは無職ではない」に繋がる。もし無職ならぬ無色ならば、これから沢山の色を乗せられるというポジティヴ発言。色彩トーン指定で色が乗る原稿用紙。久米田ならではの定番ネタが詰め込まれたギャグの応酬に大爆笑させられながらも周到に仕組まれた伏線から発せられる作家の本音って奴に見事に心を撃ち抜かれます。この物語はフィクションではあるが、いかに久米田という作家が好い仲間に恵まれ、そこに感謝しているかが伝わって来るかのようで温かい気持ちに涙がこみ上げるのです。ちなみにジャンプの山に潰されるシーンは3.11の時に桜玉吉が書いた私マンガ"深夜便"での「描けなくなった漫画家ネカフェで漫画本に埋もれて圧死」を連想しました。