映画『妻への家路』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

妻への家路

 

 

頭を打ったから

未見のチャンイーモウ作品が図書館にあったから拝見した訳だが…ほとんどニックカサヴェテスの『きみに読む物語』じゃないか。ただ舞台設定を文化大革命に置き換えただけって感じ。かつて反革命分子の汚名を着せられ捕えられた夫が文革後に引き離された妻の元に戻ると妻は健忘症で夫の顔が分からなくなっていた。それどころか文革時代に彼女を虐げた男と間違われて追い出される始末。彼女の記憶を取り戻すべく周りに説得して貰ったりピアノを聴かせたりするがなかなか効果が得られない。そこで手紙を読む係として下放先で彼女に書いた手紙を読み聞かせ始める。そして最近の手紙だと称して彼女に娘との和解を促す。カサヴェテスJrと大きく違うのは夫婦の中だけで完結する自己満足的な話ではなく親子の確執のドラマを絡めてるって所。戦後の鬼畜米やジャップと違って文革時代の中国人は甘ったれのクソッタレではないので次世代の事も考えてるって所だろうか。それにしては近年の中国は悪い意味で米国化してる気がする訳だが。

 

かつて市場原理に嫌気がさした香港映画人は1997年の返還を待ちわびた。それによって商業に狂い過ぎた映画界も正常化して昔の大陸のような優れた文芸作品が撮れると期待してたから。だが大陸の人間は香港人以上にドラスティックだった。かつて返還後は中国一の商業都市になるだろうと期待された香港は隣の深圳にお株を奪われ大陸の他の大都市も行き馬の目を抜くように香港を追い抜いた。そもそも今や北京オリンピック開会式の人として知られるイーモウは元々第五世代の中では最も商業性が高くて今作と同じチャンツィーと組んだ『初恋のきた道』の頃から文芸作品というよりは人情喜劇やラブコメ路線の作品が多かった。そして武侠アクション大作『HERO』や『LOVERS』を見た時には大陸が香港化してしまったと、ガックリ来たものです。もしかすると独裁色が強いロシア中国インド等が米国覇権を奪う事によって資本社会が正常化するかもと期待した時もあったが西側同様に中国市場ですらも悪しきネオリベ化が進んでいるようです。かつて本気で弱い者が虐げられずに済む社会を作ろうとしていた国だけに残念です。それこそ今作にバレエとして登場したシェチンの代表作『紅色娘子軍』は理想に燃えてる圧倒的な熱量の傑作な訳だが、イーモウ作品がこの熱量を引き継げているかは微妙です。それと妻を虐待した男が見つからない今作の落とし方も微妙に尻切れ感があります。