映画『Perfect Days』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

パーフェクト・デイズ

 

 

作業服差別がない情景

以前とある国土交通省の大臣が作業服で現場視察を行った際に近所の主婦が大臣を指差して子供に「あんたも勉強しないとあんな風になっちゃうよ」と失礼な発言をしたそうな。ここ最近、友人の趣味に付き合って町工場の技術展に行った際にも「辛いのは作業服を着ているだけで見下されるって所です」と語ってる技術屋がいた。この国の階級は仕事着で見分けられる風潮が未だにあります。その階級意識をヴェンダースがどの程度まで理解してるかは微妙だが『東京画』以来久しぶりの東京ロケ作品って事で拝見。云わずと知れた小津マニアのヴェンダースの中にあるのは共同体が機能してた頃の古き良き日本像なのだろう。ここに描かれているのは現代だが、とにかく欧米人観光客が好むような下町情緒の部分だけがクローズアップされていて、こんな気ままな底辺生活が今の東京にあるのだろうか?って感じです。それこそ毎日、車で都内を巡って銭湯で一番風呂頂いて顔見知りのスナックで一杯やる生活ってリモートワークで4年近く強制引きこもりで土日以外はずっと黙々とCGばかり作っている私には羨ましくすら感じます。

 

もし助手席で若者がカーラジオでヒップホップを聞いていたら黙ってラジオを切りカセットテープでCCRを流すのが立派なオヤジの作法って感じの世代の美徳が漂っています。カセットで流れる懐メロの数々は全盛期と変わらない趣向で相変わらずオシャレ感があります。ハッキリとは語られていないが、どうもこの主人公は元々は裕福な生まれで父親との確執が原因で上級国民やめて自ら望んで底辺生活をしてるようです。それが姪っ子や彼女を迎えに来た妹のエピソードから何気に垣間見える。ただ物語は彼の過去に向かう事もなく彼の日常を淡々と追い続ける。やはり役所の魅力ありきで本作は成立しています。ジャームッシュの『パターソン』を思わせるような何気ないやり取りで人物像が浮き上がる。この無口な男の幸せな底辺生活。実際ヴェンダースは外人だから未だに小津時代の共同体が残っているように錯覚してるようだが今の底辺はもっと殺伐としています。ヴェンダースも海外ばかりで撮らずに自国に目を向ければ現実が見えるのではないだろうか。いわゆる共助に安心して寄りかかれる時代は自己責任論に粉砕され渡世人のように社会の外側で生きられた時代は終わった。それを訴える国内の作家は多いがヴェンダースのようにボーダレスに活躍してる作家にはそれが見えないのかもしれない。