映画『ハートパレード』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

ハート・パレード

 

 

都会人とお犬様

『デュアルラブ』シリーズが好評の都会派ジルベルが田舎をテーマに撮ったラブコメ。シングルファザーの元彫刻家と大手広告代理店の敏腕プロデューサーが犬を巡るトラブルで巡り逢い恋に落ちる。この出会いは息子の差し金で一応、部屋を借りる女性の募集にはワルシャワ出身はお断りとされてる。ヒロインはワルシャワ出身で絵に描いたようなせせこましい都会人。苦手だった犬を巡るトラブルで解雇されたヒロインは彼が住む田舎で行われるドッグパレードを復職と出世の足掛かりにすべく部屋を借りて地元民に溶け込もうとする。だがイベントの為に許可を取ろうにも役所が怠慢で盥回しにされてしまう。これが典型的なお役所仕事って感じで「私だって忙しいんだから」と反論する職員のパソコンに写るポーカーゲーム。ただ、この動かない感じは正しい仕事とも云えます。やたらとスポンサー企業を募ってメディア戦略を仕掛けるとか大規模に物事を変えようとすれば地域のイベントとしての価値自体を失ってしまいます。その一方で「動線を広げる為に屋台の位置を変えた方が良いのではないか」という小さな提案は積極的に取り入れます。これは良い意味で典型的な地域共同体が残っている村の保守的態度の理想形。料理を作るにも食材購入は地元市場一択。少しでも安いチェーン店の商品に飛びつく態度は地域経済を破壊します。

 

ただ世田谷生まれ品川育ちの東京人としては都会人を誤解して貰っては困ります。どんな地方にも地元共同体はあり地元民は商店街の老舗を大切にしています。むしろ功利主義的に振舞って常に大規模な変化を起こそうとする輩は田舎から来た根無し草の余所者の方なのです。いかに都会であっても代々住んでる地元民は無責任な功利主義はなるべく避けようとします。このように地元で経済を回そうとする努力がアーミッシュの思想とも共通するスローライフって奴です。イメージ的に自然趣向とごっちゃにされがちだがオーガニックにしても農薬を使わないのではなく近代化の中で巨大資本の大量生産に依存する事のリスクを軽減するという目的があるのです。このヒロインは云わばメディアという巨大資本の真ん中で出世競争してる存在だから典型的な功利主義者だった訳で別に都会人皆が競争社会どっぷりって訳じゃありません。むしろ世田谷じゃ昔からの金持ちほど自分で畑持ってオーガニックで自給自足してるし。つまり出身地に関係なく地元に根付かない連中こそが功利主義者なのです。