映画『クロッシング1』の感想 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

ザ・クロッシング Part I

 

 

還れない男たち

第二世代から第三世代までほぼリアルタイムで国民党を批判し革命を賛美する共産主義者の大陸映画は大量にある訳だが、この戦線を国民党側から描いた今作はなかなか新鮮でした。あのジョンウーが大陸資本で撮った群像劇の前編。蒋介石の為に玉砕しようとする軍人と彼らを待つ為に台湾へ渡ろうとする妻たちのドラマが描かれています。この物語は大東亜戦争敗戦の年に始まります。いわゆる支那戦線で戦う軍人達。台湾のトップスター金城武が演じる名医は大日本帝国の二等国民として日本側で戦っている。この熾烈な戦場で出会った軍人たちは後に国民党軍として共に共産党軍と戦う事になる。いわゆる大東亜戦争といえば昭和末期頃は戦争を知らない世代が日本軍を鬼のように描いた反日映画が流行した訳だが、これは卑劣にも鬼畜米に諂って経済大国になった戦後クズジャップへの牽制の意味があったのだろう。むしろ戦中世代の多くは大日本帝国臣民に対して憐憫の眼差しを向けるような作品を撮っています。ここ最近はといえば割とアウトオブ眼中って感じです。まあ経済大国なら強請る価値もあるが、こんな凋落してプレゼンスも知性も失った土人貧困国家なんて叩いても何も出やしない。だから本作の視点も日本に対しては割とニュートラルです。

 

それよりも20世紀の大陸映画では最低の鬼畜外道として描かれる事が多かった国民党側の人間も本作では共産党側の人間と同様に運命に翻弄された時代の被害者という描かれ方をしています。この映画の要登場人物の中には英雄的な指揮官もいる訳だが「政治には興味がない」と、あくまでもいち軍人の矜持として戦って死ぬ事を選ぶ。ただ彼は富裕層の人間だからノブレスオブリージュがあるのかも知れないが貧困層の兵士たちは当然ながら共産党に寝返る。そりゃ上級国民の都合で同じ民族同士で争って餓死に追い込まれるなんて馬鹿げてる。「クソブルジョワは勝手に死ね」というのが真っ当な庶民の在り方だろう。そんな訳で圧倒的に庶民に支持された共産党に惨敗した国民党軍が清に敗けた明のように台湾に逃げ込んだのは有名な話だが実際、庶民レベルでは簡単には逃げられないもので日々値が吊り上がる台湾行きチケットを巡る貧困層のドラマが展開します。この辺の話のディテールは意外に描かれている作品が少ないので発見があります。とにかく現場の人間にしてみればイデオロギー的に共産主義か資本主義かなんて甘っちょろい話ではないのです。