映画『サンバ』の感想 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

サンバ

 

 

入管をナメるな

 

トレダノ監督は基本的に子供向けな甘口。昔からフランス映画は難解で大人向けの辛口が多いって印象だったからリュックベッソンやフランシスヴェベールやジャンピエールジュネ等の甘口バカ映画が出て来る事で知的な印象は次第に薄らぎつつある。まあ昔から娯楽性が高い作品もあった訳だが、ヒット作の表層だけを真似るハリウッドみたいな子供騙しではなかった。それだけに映画の面白さがどれだけ分っているかのバロメーターにはなった。つまらない権威主義に乗せられてるだけの連中もフランス映画の話をすればメッキを剥がせる。トレダノに関して云えば娯楽度は高いが基本的に子供騙しの甘口バカ映画なのだなと2本目となる今作を見て実感した。

 

移民局職員とアフリカ系移民のラブストーリーという時代性を捉えた内容ではあるが、あくまでも辛過ぎる現実は出さないようにする心遣いでお子様のトラウマにはならない内容。主人公はセネガル出身だからアフリカ系移民の中では比較的切羽詰っていない部類に入る。かつてアフリカ映画の父ウスマンセンベーヌを輩出し元フランス領の中では順調に発展した国のひとつ。それに比べてコンゴ難民である彼の知人は悲惨な貧困を体験して来たのだろう。そんな貧しい連中をこの映画では主人公に恋人を寝取られたとはいえ悪役ポジションに据えている。いわゆる臭い物には蓋のタイプのスタンスを感じる。「もう自分が誰なのかすら分らない」なんて違法偽造した外国人登録証での名前を何度も変えただけで云っているけど、もっと嘆きたくなるような悲惨な体験をした移民は沢山いる現実を知っている大人はシラけてしまうのだ。

 

ヒロインとなる移民局のボランティア女性は基本的に独ダメ(独身ダメ女)な訳だが、そこには一応ブラックな働かされ方をしてドロップアウトしたという憂慮すべき事情が語られている。それにしたって勝手に差し入れを食っちゃうとかアウトでしょ。その行動の端々に世の中ナメてる感が出ているのがダメな人物像をコミカルに描く人情コメディ的な上手さを感じる。そりゃあ対人関係で孤立して辛い役割を押し付けられ耐え切れずドロップアウトするのも当然だろうって感じで。まるで山田洋次作品を見ているような感覚。先輩のアドバイスを云われた先から無視して電話番号を教えちゃったりとか移民の怖さを全く認識していない。この平和な日本だって入管じゃ暴力事件が日常茶飯事になる位厳しく取り締まらないと多くの凶悪事件を引き起こしてる現実があるのにね。