映画『#マンホール』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

#マンホール

 

 

君は誰だ?

熊切さんの新作はダニーボイルの『127時間』を思わせるワンスチュエーションサバイバル。とある大手不動産会社の社長令嬢を射止めて順風満帆だった男が呑み会の帰りに酔っぱらってマンホールに落ちて登れなくなる。そこでスマホで助けを求める為に人を集めるネカマアカウントを作成し場所を特定するヒントとなる情報をアップしてゆくが次第に意図的に誰かが仕掛けた犯罪説が濃厚になってゆく。なかなかに胸クソな内容です。とりあえず本当に主人公の過去に関わる犯罪な訳だが彼が周囲の妬みを疑う姿はみっともなくて直視できない。きっと自分にもそんな側面があるからだろう。

 

いわゆるSNS文化って奴はそんな人間の負の部分を露骨に拡張する。それに加えて自分の場合はコロナ騒動によるリモートワークという強制引き篭もりが3年以上続いてるって意味でこの主人公に近い疑心暗鬼が生まれ得るのだろう。この主人公に関してはマンホールに落ち怪我をして出られないという痛みと不自由感がある状況が負の感情を増幅している。そしてSNSの便利さによるスピード狂状態が他人への想像力を鈍らせる。これは真っ先に疑った方が良い事です。そもそも他人に妬みや悪意があると疑うのは自分にも妬みや悪意や罪の意識があるから。その疑念に自分の体への苦痛が加わればパラノイアの一丁上がりです。この夏は特に暑いので充分に頭を冷やせているかとか栄養のある食事をしているかとか使っている薬は適切かとか充分に眠れているかとか体に負担がかかる姿勢をしていないかとかを改善すれば、おかしな疑念に囚われる前に適切な対処を行えます。

 

ただ貧すれば鈍するで今の日本では、そのように合理的に考えられる人が少なくなったようにも感じます。この物語もその手のパラノイアが生んだフィクション。コロナ禍の動画サイトでさり気なく流行っていたのは今作同様に気が付いたら脱出不可能の『SAW』等のデスゲーム系を無理ゲー化したような短編動画。本作もそれを好んだ層狙いなのでしょう。これはコロナ以前からゼロサム状態になった資本社会を生きる現代人の実感です。ただ疫病や物価高騰という痛みを伴う事で今更ながらに大衆の実感に届きつつあるのでしょう。やはり残念ながら支配層も含め大多数の大衆は痛みを知らずして他人と真剣に向き合えるだけの想像力を持ってはいません。だからここまで転落して生活苦に陥る層が爆増するまでテロすら起きなかったのでしょう。