『この自由な世界で』の感想from映画生活 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

2008-08-28の投稿

この自由な世界で

 

 

自由くたばれ

 

実に皮肉が利いたこのタイトル。ほぼ原題通り。仲介業者にはマージンを取る自由がある。人材派遣会社には賃金をピンハネする自由がある。自由経済には儲ける自由がある。貧しければ更に貧しい者を騙し盗む自由がある。競争で勝つ為に卑劣になる自由がある。誠実な他人を裏切り踏み躙る自由がある。身内が生き残る為に餓死する他人を見ないふりをする自由がある。それが社会的弱者に許された自由って奴だ。資本社会を批判している訳ではない。貧しくて非情になるのは旧共産圏も一緒。ただ最低限の思いやりが置き去りにされている気がするだけ。収益率アップの為に労働者たちに2人でひとつのベッドを遣わせるなんて発想に疑問を覚えないのだろうか?試しに皮膚病持ちのホームレスとでもベッドインしてみなさい。とても眠れたもんじゃない。長時間労働で疲れ切った男たちを性処理に使う神経には呆れる。外国人労働者を奴隷とでも勘違いしてるかのようだ。他人への想像力や思いやりを忘れる自由なんてクソ食らえです。

 

グッドウィルの廃業が記憶に新しい人材派遣業。我々労働者には身近な問題です。低賃金、長時間労働、雇用不安、外国人労働者の流入。資本家の責任回避を助長するシステム。労働者を分断するのに都合が良い社会構造。分断された労働者たちは私欲剥き出しで潰し合い犯罪に手を染める。この物語はセクハラに抵抗した事で人材派遣会社をクビになった三十路女が自ら会社を興し奮闘する中で次第に卑劣な裏切りや違法雇用に手を染めてゆく過程を描いています。サクセスストーリーでもなければ悲劇でもない。目を背けたくなる程にリアルタイムな社会問題を捉え続けたケンローチならではの問題提起。終身雇用の時代に生きた祖父の不安そうな眼差しが何とも印象的です。自由経済における努力を批判するつもりはないが今となっては自由って観念は単なるエゴイストの詭弁に成り下がってはいないだろうか。自分だけの自由を守り自分を律しないガキどもが自由という方便を濫用する限り私は自由という観念を軽蔑し続けるだろう。