『クライマーズハイ』の感想from映画生活 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

2008-08-28の投稿

クライマーズ・ハイ

 

 

記者を壊した現場

 

「♪上を向~いて歩こ~よ涙が溢れないよ~に」のスキヤキソングで世界的に知られるミュージシャン坂本九も例のぐちゃぐちゃの一部になってしまった。その現場に入ったカメラマンはどこを写して良いものやら分からなかったらしい。赤ん坊の頭が母親の身体にめり込んだり木々の枝に誰の物かすら分からない肉片や臓物が絡み付いたグロティスクな惨状は放送倫理に触れるであろう事は誰の目にも明白だった。番組を中断して生放送で報道された救出活動の映像ですらも血みどろで後にニュースで放送された時には画面のほとんどにモザイクがかかっていた。幼少期の私にはショッキングな光景だった。科学万博に浮かれていた当時、飛行機がレーダーから消えたと聞いてきっとUFOにアブダクトされたんだなんて噂が流れていたから。そんな夢のある話ではなかった。運悪く123便に乗り合わせたというだけで、ぐちゃぐちゃバラバラのスプラッター状態にされてしまうとは何とも救いがない。この物語では、その惨状を目の当たりにして気がふれてゆく記者も描かれているが、肝心の現場はトランプのエースというキザな見せ方で軽くスルー。

 

最近じゃ『金融腐食列島』『あさま山荘』の社会派と付く原田監督だが80年代に子供時代を過ごした我々の世代の映画ファンにとって彼はいつまでも『ガンヘッド』の原田。三池氏と同じノンジャンル多作な監督。ただ若松孝二にしても原田真人にしても最近ポスト熊井啓を狙っているような気がします。追悼番組に出演した原一男氏は「我々の世代は誰もが競って熊井さんを志した」と語っていた。改めて全共闘世代の作品と比べて熊井作品を見直すと影響力の大きさを再認識させられます。今作は流行ノベルである横山秀夫氏の原作で加藤正人脚本って商業的に無難な組み合わせだが、もし御存命ならば確実に熊井氏にオハチが回りそうな企画です。日本近代史に残る大事件、日航機墜落事故に関わった地元新聞社の奮闘記。

 

ベルトの上にサスペンダー。チェックWチェックの精神。これは実はあまり報道には向きません。この手の正確さを重視した記者の多くはドキュメント畑に流れます。抜くか抜かれるかの現場では不確かな情報でも出した者勝ち。疑念があれば後で訂正するだけ。だから風評被害なんて日常茶飯事。勿論、綿密な裏取りを行ってはいるが100%疑念が消える事はまずない。むしろフィールドワークには、いい加減にならなければやり過ごせない局面の方が多い。ドキュメントに比べると報道は情報確認や整理のタイムリミットが限られている分だけ誤解を生むような表現が多分に含まれています。ちゃんと5W1Hを整理した所で前提となる共通認識から偏見が消える事すらない。どんな時事であっても新聞や小説や映画で知ったつもりになっていても実際にフィールドワークに出てみると世間の情報がいかに偏ってるかが実感できます。そういった意味で新聞は正確じゃないって事実を前提として見るとこの主人公のクライマックスでの臆病風は褒められたものではありません。アティキュエーションの悪さを割り切った原田節の芝居がブン屋の抜き差しに程よく熱を帯びさせて娯楽としては充分だが個人的に報道に対するメッセージ自体には共感できませんでした。