『衝動殺人息子よ』の感想from映画生活 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

2017-01-22の投稿

衝動殺人・息子よ

 

 

殺され損

 

江戸時代にも辻斬りって犯罪はあった訳で、いわゆる「誰でも良いから殺してみたかった」って通り魔はいつの時代にもいる訳だが、これをマスコミは妙に世代感に絡めて論じだがる。バブル世代で有名な未成年犯罪は女子高生コンクリート詰め殺人とか我々の世代では酒鬼薔薇聖斗とかがあって人知れずマイナー市場で映画化もされ新藤兼人が撮った『裸の19才』とかも少年犯罪だ。それを被害者側の視点から描いた社会派って奴も少なくなくて我々の世代では三池先輩の『太陽の傷』とか東野原作の『さまよう刃』とか、いくらでも例がある。これはその70年代バージョンって所だろうか。かつて松竹の頃は社の方針に従った極めて商業的な人情モノが多かった木下恵介だが、独立プロを立ち上げて以降は牧歌的な路線を捨ててセンセーショナリズムに訴えた刺激的な社会派で集客を狙ったのだろう。メロドラマに偏らず直球で社会の矛盾に疑問を叩き付ける社会派。

 

ドイツの新鋭ヒルシュビーゲルが英国で撮った『5分間の天国』という作品ではIRAのテロリストが自らの犯した殺人体験を書いた本がベストセラーになり勝ち組となった一方で、その彼に殺された側の遺族は離散し就学機会も失われ貧困のどん底に追い込まれた負け組となる現実が描かれた。まあパラノイアに陥り一人寂しく死んでゆく勝ち組と、たくさんの友人に慰められ励まされる負け組な訳だが。いわゆる殺し得や殺され損ってのはこの手の犯罪には付き物の話。今作品でも夫を失った事で困窮し貧困のどん底に追い詰められ他人を信用できない所まで追い詰められた人々も登場する。こいつらは被害者の会の勧誘に耳を貸す事すらしない連中として描かれるが、こんな連中こそ本当に描くべき対象であり、そこを描かないという所がウジムシ視点の今平と違って木下の大衆迎合的でユルい所なのだろう。