2009-06-24の投稿
それから
匂る人妻
ちょっとしたボタンの掛け違えが運命を狂わす。これは密かに想い合っていた女と結婚できなかった男の話。夏目漱石原作のラブストーリーに『家族ゲーム』のコンビが挑んだ意欲作。列車の中で花火をするなんて妙なイメージショットもある80年代的センス。昔『ディープスロート』ってポルノでフェラでいくシーンでロケット発射場面が挿入されるなんて露骨なほどに即物的なモンタージュがあったけど、そんな表現よりはずっと艶っぽい。花瓶の水を呑む件など花の香に触れる対話の間が感覚的なエロスを掻き立てるのだ。湿気にぬめった梅雨の濃密な空気に圧されてむわっと来た女性の髪の匂いに一瞬クラッと来るような感覚。
男の友人は女を娶った。女は男の正直な告白を待ちきれず愛されていないと勘違いし自棄になっていた。友人と共に戻って来た女の苦しみを知った男はたまらなくなる。後悔しても遅い。彼女は友人の妻。離れていれば諦めもついた。だがこんなにも近く昔と変わらない彼女の姿を目の当たりにしてしまうと、もうどうにも抑制が利かない。そんな男の中で騒ぎ始める激情が静かな対話から滲む。男は声を荒げる事もなく。むしろ周囲の人々の方が当惑して男を厳しく責め立てる。一番激しく苦悩している男が終始冷静さを保っている事で、その感情の激しさがより印象的に残る。なかなか見応えのある一本でした。