『スナイパー』の感想from映画生活 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

2021-11-01の投稿

スナイパー:

 

 

50m

 

近年の香港映画界で最も注目に値する鬼才ダンテラムの未見だった作品をチェック。とある下町生まれの警察官が射撃の腕を見込まれてエリート狙撃部隊に抜擢。温厚なリーダーの元で腕を磨くが、かつて狙撃部隊でナンバーワンだった男のやり方に興味を惹かれ始める。だが彼は人格的に不適格とされ除隊された後に犯罪者側に雇われていた。そんな訳で狙撃部隊とかつてのナンバーワンの対立構図へと物語が進行する訳だが、この悪役の悲劇的な人生こそが描こうとしている点に思えます。この男の傲慢さや犯したミスは決して許されるものではないがチンピラのような父の元に生まれた主人公にとって他人事にも思えない。そこにはコンプレックスの裏返しがあるのだ。つまり他に何も誇るものがないが狙撃だけは圧倒的な実力を見せられる。そう思うとスタンドプレーに出易くなってしまうのです。スナイパー自体はあくまで裏方として黙々と命令に従うべき仕事。人質が権力者の親類なら上層部はリスクを避けて狙撃中止命令を下す。それが気に喰わず狙撃の腕を見せたいという自己顕示欲に溺れてしまうという訳です。

 

いわゆるバリバリにノワール路線なアクションという訳ではなくチームコンセンサスに比重を置いたスポ根モノにも近い味わいを見せる作品でドラマとしては悪くない。ただダンテラムならではの緊迫感が活かせていたかというと微妙。元々狭い空間での駆け引きがあるアクションに定評のある監督な訳だが今作においてはエレベーターで容疑者のヤクザと乗り合わせてしまうという『ダイハード3』にも似たアクションシーンが唯一ダンテラムの強味を見せられたシーンで、その他は月並みな印象でした。それからクライマックスで登場する50mの威力はなかなかのインパクトでした。まるで対戦車砲のように主人公たちが隠れている柱のコンクリートすらも削ぎ落す。この監督は銃マニアでもあるらしくディストレーションエフェクトを使った武器ごとの表現の違いが凝っています。ただ話自体に緊迫感が足りなくダンテラム作品にしては大して引き込まれるような品質ではありませんでした。