『めまい』の感想from映画生活 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

2013-10-10の投稿

めまい

 

 

正義に負ける愛

 

中学の頃に見て以来だから20年以上ぶりだから完全に忘れてると思いきや、オープニングだけはインパクトがあったのでよく覚えていました。主人公の刑事と警官が犯罪者を追い駆けて屋上を走り回っている時に足を滑らせて主人公が落ちそうになる。それを助けようとした警官が落死。彼らが飛び越えようとした屋根と屋根の距離は1mもないのに。こんなちょっとした事でも人は死ぬのかと怖くなった思い出があったのです。それだけは覚えていたが内容の方は完全に忘れていたので楽しめました。刑事をやめた主人公が大学時代の友人に依頼された妻の素行調査。彼女は先祖の亡霊に憑かれているという荒唐無稽な依頼。だが次第にそれは真実味を増してゆく。それでもやはり西洋合理主義では怨霊や前世の記憶なんてオカルトは成り立たず、バックには必ずトリックがある訳だが。その手の典型的なミステリーはヒッチコックの得意分野。引き出しの多い彼の手法の中で、この作品は逆ズームを使った事で有名。高い所から下を見てめまいを覚えるシーンに効果的に使っています。

 

それにしてもこの頃のテクニカラーは味があって良い。書き割りの合成もスタジオ撮りも質感の差異が目立たないから上手い具合にこなれた絵になってます。まるで情景が印象派の絵画みたいに見える。スタジオ撮りの車のバックに投影された別撮り素材も、露骨な照明効果も、今の機材で撮ったら違和感だらけだろうに。ただ夢の描写などあえて違和感を狙った部分も多々ある。花弁が散るアニメが挿入されたり今となってはサブカルの滑稽な表現として認識されるような手法が大真面目に使われているのだ。冒頭で眼球に渦巻きを合成したタイトルバックのセンスとか、シンプル過ぎる事がデジタル世代の我々にとってデフォルメ表現にも似た笑いを誘ってしまう。そんな発展途上の技術ならではの整合性のズレ故に普遍的表現にはなり得ていない作品。もっと古い『レベッカ』などの方が同じヒッチコックのミステリーでは普遍的な完成度の高さを感じます。

 

トリックに関しては完全に納得できるけれど、この作品は後味が悪い。勧善懲悪の悪しき面とでも云うべきだろうか。愛し合う気持ちは本当なのだからふたりで幸せになればいいじゃないか。でもプラトニックな考え方をしてしまえば愛する人は死んだと考えてしまうのも納得できる。フィジカリストである私からすれば、そんな事知るかって感じ。紛う事なくかつて愛し合った相手が目の前にいるのだから精神論かざす前に抱き合えよ。その場に実存する事が全て。過去の記憶など所詮は副産物。それに囚われるからこんな荒唐無稽なトリックにすら騙される。過去に決着をつけるなんて考え方はネガティヴで後向き。もし嘘が分かっても私なら決着など求めない。ってえかそれ以前に人妻と不倫なんかしない。ってえかアシスタントのメガネっ子の気持ちに応えて人妻なんて眼中にない。このメガネっ子の献身はありがたいはずなのに、この主人公はほぼガン無視。今の価値観からすると、あの美人妻よりもアシスタントのメガネっ子の方が萌えポイントが高いヒロインに感じる訳です。