2011-08-31の投稿
BIUTIFUL ビューティフル
向こう側には
まるでダルデンヌ兄弟の作品のように生臭く描かれたバルセロナの移民街。
そこで余命わずかと宣告されても子供たちの為に生き続けようと足掻く男の物語。
「いくら手なずけても飢えた者は信用するな」
貧困は倫理を腐食する。誰でも切羽詰まったら人情どころじゃない。食べる為には良心も捨てる。この主人公は中国人労働者の少女をベビーシッターとして使っている。また強制送還されたセネガル人の妻に子供を預けたりもする。離婚した実の妻は精神的な病気なので任せておくと子供を虐待するから。だが移民たちは金次第でいつでも裏切る。困った事にこの主人公には自分の死後、安心して子供を預けられる相手がいないのだ。物語の核心は彼が信用できる相手を探すという所にあります。
「雪を見た事があるかい?」
映画の最初と最後は同じシーンを逆のカメラポジションから撮るという構造になっている。これまでもイニャリトゥ作品はどれも構成に一癖あったが、今回はもっと詳細な部分にその癖を持ち込んだって所だろうか。逆から取る事で最初は誰が何の話をしているのか、どういう状況なのかが分からないが、最後に何が起きていたかが全て明かされる。その見せ方のひとつとして主人公には死者が見えるという設定を加えたのだろう。実に見事な構造です。顔を見た事もない実の父との対話という詩的なシーンが衝撃的なほど響きます。
「人は死ぬと21グラムだけ体重が軽くなる」
これは彼の他の作品のキャッチコピーな訳だが、魂の重さを物理的に数字にしてしまうという感覚は目新しかった。それと同様に今作品でもイニャリトゥの死に対する認識には独特な感性に少し驚かされます。身体から魂が抜けて天に召されて、未練がある者はこの世に残るという死生観自体はどこにでもよくあるものだが、その描かれ方は決して神聖なイメージではなく、生きている人間と同様に生々しい。
相変わらず荒々しく、かつ繊細なイニャリトゥ作品に今回も見事ノックアウトされてしまった。
