2005-06-23の投稿
ステレオ/均衡の遺失
スキャナーズ ビギンズ
「私にとって作品中のカタルシスは決して単純ではない」
と某雑誌の対談で昔クローネンバーグは語っていました。
初期の2作を見る限り、私が思うに彼のカタルシスとは
自我領域の侵食にある様な気がする。『クラッシュ』で
最も解り易く語られた『戦慄の絆』『裸のランチ』に
通じる『クライムオブフューチャー』の独特な官能の
対象となる患者が集まったあの病院が"皮膚の館"ならば
この作品の舞台は"神経の館"とでも定義づけるべきです。
この作品ではスキャナーズシリーズにバックグラウンド
として描かれていたテレパシー実験をより掘り下げて
論理的に語ると同時に、彼独特の他者侵食への興味を
じっくり見せてくれる。次作ではガイガーカウンターを
模した効果音や肉体的に異物が宿る事で生じる症状を
じっくり見せる事で、他者の領域の侵食を謀っていたが
今作品では、もっとシンプルに精神的侵食に留まってる。
侵食の婉曲表現もモノクロの映像も低予算故だろうが
次作と比べると今作品の方が解り易く仕上がっています。