2005-05-09の投稿
エレニの旅
ほつれる毛糸
"川が始まる所""音楽の溜り場""オペラ座の塒"どれも弱い。
"海底都市""音楽で応える隣人""海辺の散文""国境の影"
"魂のバス""明日の時の永さ"等、前作のキーワードと
並べて比べると、詩的爆発力がパワーダウンしている。
メロドラマの表層を軽く突き破っていた前作までと違い
今回は下手をすると只の悲劇になりかねない程ギリギリ。
特に後半は、話の内容からしても陳腐さを感じてしまう。
これなら、メロドラマの表層すら曖昧な初期作品の方が
表現としての価値を感じる。ただ、悪い作品ではない。
楽団との旅路から洪水辺りまでは、クストリッツァを
思わせる心地良さがあり、別れの港で男が手渡された
編み物から毛糸がほつれてゆくシーンは突き抜けている。
ロシアでギリシャからの難民達に拾われた孤児エレニ。
早くに妻を亡くした義理の父に結婚を迫られ承諾するが
密かに想いを寄せていたアコーディオン奏者の義理の兄と
駆け落ちし、どさ回りの楽団に拾われて巡業を始める。
彼の演奏は高く評価されアメリカ行きの話が持ち上がる。
彼にはアコーディオンがある。彼女は楽器を持たない。
ただ誘われるままにチークを踊る。愛する人を失う不安を
その胸に抱きながら沈黙を奏る。やさしく包み込む音楽。
やはりこのコントラストが、この作品の魅力なのだろう。
当時正に『ひめゆりの塔』だった沖縄から届く手紙。
彼とはこの先どうなるのだろう。早く続きが見たい。