コース外の人影 | 台本、雑記置場

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●コース外の人影


 スノーボード好きな真柴さんは、毎年仲間と連れたってスキー場に滑りに行っていた。
 しかしある年、友人たちに隠れてこっそり特訓したいと思い立った真柴さんは、一人で夜行バスに飛び乗ってスキー場へ特訓に出かけた。
 バスを降りるとすぐに足が埋まるほどの雪。真柴さんの期待は高まった。
 だが下調べもほとんどせずに思いつきでやってきたスキー場には、初心者向けのコースしかなく、これではどうにも特訓にならない。
 おまけに多くの人が滑ったあとのコースは雪質は悪く、すぐにベタベタとウェアやボードに雪がこびりつく。

 天候は軽い吹雪で、見通しはかなり悪い。
 これならばコース外に出ても見つかることはないだろうと思った真柴さんは、あることを思いついた。
 彼の滑っている初心者コースは、山を回るようにぐるりと曲がっていたのだ。
 コースを外れてこのカーブをまっすぐ突っ切るように滑ればもっと傾斜も急で、踏み荒らされていない雪のうえを滑れるのではないか。

 早速彼は初心者コースのうえのほうからこっそりとネットを超え、コース外へ出た。
 険しい斜面とふわふわの雪は滑っていて爽快だったが、一度転倒すると太もものあたりまで雪に埋もれてしまった。
 こうなるとスノーボードどころではない。
 なんとか時間をかけて一度は雪の中からはい出したものの、周囲は踏み固められていない柔らかい雪。歩くのも一苦労の道のりで、立ち往生してしまった。
 不意に、後ろの雪の中から声をかけられる。
 見ると、真柴さんと同じように雪に埋もれた若い女性がいた。
 真柴さんはなんとか雪をかきわけ女性を助け出すと、一緒にふもとのゲレンデを目指して斜面を下っていくことにした。女性は弱っていて小高く積もった雪の中を進むことが出来なかったが、真柴さんが雪をかき分けた後ろの道なら歩くことが出来るようだった。
 吹雪のせいで方向感覚はなくなっていたが、斜面を下っていけばコースのどこかに行きつくはずである。
 
 視界の悪い中を歩き出すと、女性が前方を指さして言った。
「あそこにも人が埋まっています」
 真柴さんが指さされた方角を見ると、確かに雪がくぼんでいる。雪が積もった場所は動けない女性を待たせ、真柴さんは雪をかき分けながらくぼみに向かう。
 と、そこには古い色褪せたスキーウェアを着た女性が埋もれていた。
 さっきの若い女性同様、一人では抜け出せなくなったのだろう。
「大丈夫ですか?」
 近づき、真柴さんが手を差し伸べる。すると、ふっと女性は消えてしまった。
 雪が女性を覆ってしまったのかと慌てたが、その様子はない。人型のくぼみだけを残し、女の人が忽然と消えてしまったのだ。

 不気味なものを感じた真柴さんは、指さした女性のもとに急いで戻り「誰もいなかったよ」とだけ伝え再び下山を開始した。
 すると少し進んだ先で女性がもう一度雪の中を指さし「人がいる」と言う。
 また真柴さんが一人で指された場所を確認に向かうと今度は男性が横たわっていたが、やはり近づくと消えてしまう。

 次々と人が煙のように消えてしまうなど、明らかにおかしい。
 これはまずいと思った真柴さんは、女性を急かし下山の足を速めた。
 何度か女性は立ち止まり「あそこにも人が……」と言い募ったが、真柴さんはあとで救助の人を呼ぶから、と確認せずに進んでいった。女性もしかたなくそれに続く。

 そして三十分ほど雪のなかを進むと、ようやく元いたコースが見えてきた。
 真柴さんは喜んで振り返ると、さっきまですぐ後ろにいたはずの女性の姿が消えていた。
「もう少しだったのに」
 口惜しそうな女性の声が、真柴さんのすぐ耳元で聞こえた。
 
 幸い真柴さんは今でも元気にスノーボードをしているが、それっきり彼はそのスキー場には滑りに行っていないし、決められたコースを抜けるようなこともしなくなった。

 

 

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