台本、雑記置場

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●ホラ吹き先生


「私は教え子たちから『ホラ吹き先生』と呼ばれているんですよ」
 小学校で教員をしている三神さんは、優し気に微笑んで言った。

「思いつくままに嘘を言っては、子供たちをからかってましてね」
 ただ、三神さんがそんな風になったのにも成り行きというものがあった。
 三神さんが子供たちに初めて嘘をついたのは二年前の夏の事だ。
 空いた時間に子供たちが「先生、何か怖い話ない?」と尋ねて来た事がきっかけだった。
「ちょうど私はなんていうか、心霊体験……いや少し違うんですかね。怖いわけじゃないんですけど、不思議な体験をしましたので、その話をしたんです」

 その体験を、三神さんが私にも語ってくれた。
 三神さんはとある日の夜、車に忘れ物をして取りに駐車場を訪れた。
 その時三神さんは、奇妙な視線に気が付いた。
 駐車場は屋外にあり、隣接する形で田んぼがある。駐車場の敷地は、田んぼの敷地と比べいくらか高く作られてあった。
「どれだけの段差があるかと言うと、そうですね。だいたい一メートル半くらいです。中高生ぐらいの子が田んぼに立てば、駐車場からは首から上だけが地面から生えているように見えるような具合でしょうか。その晩、そこにちょっとしたものが見えましてね」
 
 三神さんが視線を感じた方向を向くと、田んぼの上に女の子の首が見えた。
 こんな夜遅くに、女の子は駐車場から三神さんをじっと見つめて来るのである。
 三神さんは直感的に、この子は人ならざる者だと感じたそうだ。時間が遅い事もさることながら、彼女のうつろな視線に目を合わせていると不思議と肌でそれを感じ取れた。
 少女は一段下の田んぼから頭だけを出して、じっとこちらを見ているだけだった。
 何を言うわけでもなく、何をするわけでもなく――。
 本当にただただ三神さんを見ているだけ。三神さんもどうして良いかわからなくなった。
 三神さんは仕方なく当初の目的である忘れ物を取り、その場を去ろうとした。
 その時だった。
「だああああっ!」
 突然、駐車場に男の大声が響く。三神さんは思わず飛び上がった。
 声の方向に目をやると、見知った顔があった。
「はっはっは、驚かせてしまいましたね。ごめんなさいね」
 男性が平謝りをする。彼はたびたびこの駐車場を利用している人で、三神さんも名前こそ知らないものの顔は覚えていたのだ。
「いきなり、なんですか?」
 三神さんは突然脅かされて不愉快だったので、そうとわかるような口調で尋ねた。すると男性は首を傾げて三神さんをじっと見つめて来る。
「おや、視線があっちに向いてるなって思ったんですが……見えませんでしたか?」
 男性が逆に聞いていた。
 ――きっと、あの女の子の事だ。
 三神さんはもう一度、彼女が頭を出していた田んぼの方を見る。しかし、彼女の姿は忽然と消えていた。
 三神さんが田んぼに視線を向けた事で、男性も理解したらしい。
「ああ、やっぱり貴方にも見えましたか。あれね、あんまり良くないものですね」
 男性が頷くのを見て、三神さんは疑問を口にした。
「確かに、女の子が見えていました。良くないとか、そういうのまではわかりませんでした。でも、なんで突然叫んだんですか?」
「あぁすると幽霊側が驚いて逃げるんですよ。はっはっはっは」
 そういうものなのか、と三神さんがなんとなく納得はしたもののあまり深く関りたくはないなと感じた。三神さんは男性に軽く会釈をして、帰路についた。
 その後、あの女の子を見かける事はない。
 大声を出した男性とはたびたびすれ違う事はあるが、挨拶をする程度でそれから何かがあったという事もなかった。

 三神さんは、そんな話を子供たちに聞かせてあげたのだという。
 オチこそ何もない話ではあったが、叫び声で逆に幽霊を脅かせるという斬新な話に、子供たちは興味津々だった。
 そんな子供たちに、三神さんはここぞとばかりに「嘘だよ」と告げたそうだ。
「え、何が?」
「え? 何々?」
「まさか、この話が?」
 子供たちは最初戸惑っていたが、からかわれたのだと気が付きゲラゲラと笑い始める。
「やられた!」
「マジか!」
「くそう、騙された!」
 それから子供たちは、愛称として三神さんを『ホラ吹き先生』と呼び、慕ってくれるようになったというけだ。

 この話を終えて教室を出たあと、三神さんは声を掛けられ呼び止められた。
「先生、話があります」
「うん? どうしたんだい?」
「先生、あの話本当ですか?」
 まっすぐな目で見る生徒の視線を受け止めながら、三神さんは頷いた。
「ああ、嘘だよ」
「本当に嘘ですか? 私見たんです。先生が話をしている時、最後の最後に由紀ちゃんの後ろからぬっと女が頭を出して、由紀ちゃんをじっと見ていたんです。そしたら先生が急に『嘘だよ』っていうので、私はてっきり私たちを守る為に嘘って事にしたんだと思いました」
 三神さんは、こう答えるしかなかった。
「あぁ、嘘だよ。だから全部忘れなさい」