シリーズ完結編「菓子屋横丁月光荘 光の糸」を読んで川越へ | akikoの読書日記

akikoの読書日記

本好きな方へ

 東武東上線沿線に友人が住んでいて、20年ほど前に一緒に川越に遊びに行った。その後、川越を舞台にしたほしおさなえの「活版印刷三日月堂」シリーズを読み、再訪したいと思っていたが、コロナで実現しなかった。その間、同じ作者の川越を舞台にした「菓子屋横丁月光荘」シリーズも読み、コロナ禍もあけ、今年こそ梅雨に入る前にと友人と5月に出かけた。川越に行く前に、買い置きしていたシリーズ完結編「菓子屋横丁月光荘 光の糸」(ハルキ文庫)を読んだ。

 家の声が聞こえる主人公・遠野守人は大学院を卒業して月光荘の管理人、イベント主催者として働きだす。就職祝いに呼ばれた狭山市の「とんからり」という蕎麦懐石の店に行くと、遠野の耳には文字通り機織りの音が聞こえてくる。そこから狭山市の広瀬という場所で織られていた広瀬斜子という織物の話につながっていく。ちなみに先日、大学時代の研究サークルの仲間4人と食事会をしたが、そのうち1人が狭山市に住んでいて広瀬斜子のことを知っていた。途絶えていたのを復活させ、地域活性化の一助にしようとしているとか。作者は地元の動きをうまく物語に取り入れているのだなと感じた。

 そして、遠野はパンフレットに書いたエッセイが好評で、家の声が聞こえることを生かした小説を書くことになる。最後は意外な人物との恋愛の予感で終わっている。家との会話が挟み込まれるSF的要素のある物語なので、主人公が小説を書くという終わり方がふさわしかったのだろう。家との会話に違和感を覚えずに読めるのが、作者の力量と言える。そして、川越の町の描写のリアルさが魅力。本作に出てくる「庭の宿・新井」は、廃業した料亭を1日5組限定の宿に復活させたという設定だ。私が川越に行ったとき、昼食は明治時代から続く老舗料亭で食べたが、緑が広がる庭や廊下に飾られた花、縁側の蚊取り線香の煙など奥ゆかしい趣で、「新井」のモデルではないかと思った。本シリーズは川越に行ってみたいと思わせ、実行させるだけの魅力あるものだった。